俺はリヒャルト王子やニコラウス王子と分かれて一旦ブッシュバウムに戻ることにした。
「あの…一体何でクラウディア様を拘束なさっているのです?」
「そうだ!一体何の真似だ!?クラウディア嬢はお前の婚約者だろ?」
「今はね…お前らには関係ないことだ…この国の汚れを払ってやったんだから感謝しろよ…まぁ、近いうちに明日香たんとまた来るけどな!」
リヒャルト王子とニコラウス王子も訳が判らない顔をした。
ハクちゃんもローマンと婚姻の為について来ることになり俺を見ると
「何かあったな…心臓にピンクのハートがぶち刺さっとる」
ローマンは…
「俺には何も見えないけどジークがおかしくなったのってそれのせい?抜けないのか?ハク…」
「流石の我も女神の力の及ぶモノは触ることは許されん…そういうものなのだ」
と苦い顔をした。
クラウディアはずっと俺を見ていた。
「俺を見るな!…馬車に乗って帰るぞ!」
「お兄様…一体どうして?クラウディアお姉様にこんなことするの?」
「ごめんよ…エリーゼちゃん…でももっと綺麗な黒髪のお姉様ができるから安心しな」
と頭を撫でアルデンを出発した。
クラウディアとは馬車をもちろん別にした。
休憩を取りつつ国に向かう間もクラウディアとは一言も話さないし無視した。向こうはまだ俺をチラチラ見ていた。鬱陶しいな!
ブッシュバウムに入りしばらく馬車を走らせていたが、クラウディアの乗った馬車が壊れてクラウディアとヘンリックが逃走した!
「追え!逃すな!…あの女!!牢屋に入れられまいと逃げたんだ!畜生!能力封じの拘束具が今無いから…っ!」
俺はギリギリ歯軋りし、とりあえずバルシュミーデ家の人間達もとっ捕まえておくように言った!
こうなったらバルシュミーデ家が没落しようとも構わない!さっさと王宮に帰り婚約破棄の準備をしなければ!クラウディアの署名も残念ながら必要だしな!
「絶対にクラウディアを…鮮血姫を捕らえろ!国中に手配書を回せ!捕まえた奴には報奨金だ!」
フェリクスもローマンもエリーゼももう何も言わず俺を見ていた。
*
森をヘンリックと魔物と闘いながら私は逃げた!行くところは一つ!その為にタイミングを見計らい馬車から逃げた!
「お嬢様待ってええええ!」
「ヘンリック急いで!馬を奪えば良かったけど…」
着ていた服もドロドロになりつつも私はただ目指した!レーナ嬢のところに!!
ジークヴァルト様がおかしくなったのは絶対にあの女神レシリアのせいだ!ザスキア様にも酷いことをしていた!
それに…もう転生のことなどを話せるのはレーナ嬢しかいない!
もしレーナ嬢にまで手が回っていたら!!
はぁはぁ…
「ひい…やっと…着いた!!」
ヘンリックがトラウトナー伯爵邸を見上げた。
「…こんな姿で入れてくれるかしら?」
「まぁ、不審者ですもんね普通に……」
「ヘンリック…今更だけど巻き込んでごめんなさい」
「お嬢様…どうせあの場にいても私も牢屋行きですよー!嫌ですよーまずい牢屋飯は!」
そして私はトラウトナー伯爵邸を訪れた。
*
「下で騒いでるから何かと思いましたわ…クラウディア様と従者様は泥だらけで不審者全開だったし…」
とレーナ嬢は一応お風呂と服を貸してくれた。……胸がダブダブですけど…仕方ないわ…。
私はレーナ嬢に今までのことを全部話した…。
「レーナ嬢…力になってくれないかしら?それにまだ私の知らないことがあるのでしょう?」
レーナ嬢は溜息をつくと…
「んじゃ、ちょっと口調が前世に戻っていいっすか?失礼だけど…」
「ええ…もう戻ってますけどね」
「クラウディアちゃん…この世界はさぁ…」
とレーナ嬢は話し始めた。
その内容にとんでもなく驚く。
「では私は悪役令嬢とやらなのですか?」
「まぁ、ジークヴァルトも転生してるし、あたしも転生者。あたしは本ヒロインだけどこの世界じゃあたしの方が悪役でヒロインはクラウディアちゃんなんだよ!ジークヴァルトが好きになっちゃったんだからさ…今はレシリアのせいでおかしなことになってるんだっけか」
「……はい…あの方は私と婚約破棄するつもりです!アスカとの結婚や奇跡でレシリア信仰を広めると…私はどうしたらいいのかもう…」
と目から熱いものが我慢できなくなり私は泣いていた。声を上げることなく…。
「クラウディアちゃん…流石のあたしもあの王子をぶん殴りたくなってきたよ…こんな美少女泣かせやがって!」
レーナ嬢が殴ったら死にますわよ…。
「とりあえずここを出よう!すぐに城から騎士団や兵士もくるだろうしさ!」
「ならば!我の隠れ家に案内しようぞ!」
といつの間にかコンチャーン様が現れた!
「…うわっ!ケダモノ!いつの間に!」
レーナ嬢が嫌な顔をした!
「娼館にも兵士がぞろぞろ来たし逃げてきたのだ!何かあったろうな…」
コンチャーン様のところにも!
私はコンチャーン様にも一応話した。
「それは…さぞ辛かろう!クラウディア!我が慰めてやろうな!」
「クラウディアに手をだすなこのエロ狐!」
とレーナ嬢が変わりに庇う。いつもならジークヴァルト様が言ってくれるけど今は他の方に夢中だし、ここにもいない…。
「……とりあえず行くぞ!この邸ごと我の力で移動させよう!」
とコンチャーン様は尻尾をザワザワさせ、なんと九つの尻尾が生えた!!
「コンは九尾だもんな」
とレーナ嬢は判ってるようだった。
それからズゥンと建物ごと揺れて不思議な空間へと移動した。
赤い華がたくさん並び、不思議な見たこともない建物が浮かび上がっていた。木造りかしら?屋根の形も独特だわ…。扉前には2体のキツネ石像と石階段の手前に赤い囲い柱?みたいなものがある。
トラウトナー伯爵邸も泡玉のような中に包まれていた。
「我が屋敷だ!」
「ああ…一応異空間ってやつだよな…ライトノベルでは本ヒロインがコンに拐われた時ここへ一時連れてこられたことあったなー…。まぁ今は身を隠すには丁度いいか!」
「うむ!しばらくゆっくりするがいい!我が必要ならいつでも…」
とそこでレーナ嬢がメキョリと顔を殴った。
「何をする…お前まさか嫉妬か?我が美しいからと!」
「1ミリもお前には興味ない!このクソニートエロ狐が!」
…元気ですわね…。
「お嬢様!この空間なんですか?あっ、コンチャーン様のせいですか!屋敷の者も驚いてますよ?」
レーナ嬢はヘンリックに省いた説明と状況をしに行った。
私はとりあえず伯爵邸の一部屋を借り一人になると泣いた。
どうしてもずっと辛くて仕方なかった!
あの女神のせいにしても…ジークヴァルト様は私を見てくれなくて話もしてくれなくて心がズキズキと痛くてたまらない。
ジークヴァルト様がアスカと口にするだけで嫉妬した。でも必死に耐えていた。
「ふぐっ!うっ!うっ!ジークヴァルト様のばかあ…」
泣いてる場合ではない…このままでもいいはずでもない…私はもう一度神殿に行きたい…コンチャーン様かレーナ嬢を頼るしか今は出来ない…。
アスカとやらと違い自分の無力さを知った。鮮血姫なんて…なんの役にも立てないではありませんか…。
でも…ジークヴァルト様の心はきっと取り戻さないといけないのだわ…。
と私はゴシゴシ涙を吹いた。