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ちゃちな正義を語るなら、あんたの“想い”で壊してみせろ。
ちゃちな正義を語るなら、あんたの“想い”で壊してみせろ。
竹間単
現代ファンタジー異能バトル
2025年05月15日
公開日
2.2万字
連載中
 昔住んでいた町に引っ越した堀田相馬(ほったそうま)は、転校初日に男子に囲まれる阿佐美鏡花(あさみきょうか)を目撃。鏡花を助けた相馬は「あんたの正義が本物なら武道場の地下に来なさい」と言われる。  武道場の地下は“想い”を武器に決闘をする闘技場だった。  闘技者にキスをすることで“想い”を武器に変える具現者の鏡花と、相馬は闘技者になる契約を交わすのだった。

■第一章 『戦いは口づけとともに』

第1話


 懐かしいような、そうでもないような、中途半端な思い出の町。

 この中途半端な世界で俺はこれから生きる。


 ざわつく教室の中でひときわ元気な先生の声が、廊下まで響いてきた。


「はい、静かに。今日は転校生を紹介します。東京から来た堀田相馬君です。堀田君、入って」


 教室のドアを開けると、教室内には男女合わせて三十人ほどの生徒たちが座っていた。

 事前の説明で、この高校は各学年一クラスずつしかないと教えられている。

 一学年が七クラスあった東京の高校とはかなりの人数差だが、クラス内の生徒自体は同じくらいの数だ。


「堀田相馬です。よろしくお願いします」


「堀田君は小学生の頃まで隣町に住んでいたらしいので、知っている人もいるかもしれませんね」


 そう言われて教室内を見回してみたが、俺の知る顔は無かった。

 しかし俺が隣町に住んでいたのは小学生の頃のことで、小学生と高校生では顔の作りも変わっているだろうから、実際のところは分からない。


「あっ」


 教室内で小さな声がした。どこかに俺のことを知っている生徒がいたのかもしれない。

 誰だろうと生徒たちの顔をよく見ようとして、一人とても目立つ生徒がいることに気付く。

 輝く銀髪を携えた目つきの悪い女子生徒。

 あの髪は染めているのだろうか。銀髪とは思い切ったことをするものだ。

 ……いや違うか?

 銀髪の生徒は肌が白くて青みがかった灰色の目で、どこかアルビノを思わせる配色だ。

 とはいえ、あの目もカラーコンタクトレンズを入れているだけの可能性もあるが。


「では堀田君は、阿佐美さんの隣に座ってください。教科書が届くまでは阿佐美さんに見せてもらってくださいね」


 先生に促されたのは、例の銀髪の生徒の隣だった。

 俺が席に座ると、すぐに授業が始まった。


「……初めまして、阿佐美さん? これからよろしく」


「ども」


 先生に阿佐美さんと呼ばれた銀髪の生徒に挨拶をすると、面倒くさそうにものすごく短い返事をされた。

 コミュ障か、もしくは俺と仲良くなる気が無いようだ。




 一時間目の授業が終了するとすぐに、俺のもとには数人の生徒が集まってきた。

 東京にはどんな店があるのか、東京には美人が多いというのは本当か、芸能人に会ったことはあるか、満員電車はどのくらい辛いのか、など次から次へと質問が飛んでくる。

 転校生が物珍しいのだろう。

 そして話しているうちに、先程の声の主が判明した。


「相馬君って、この町の剣道道場に通ってなかった?」


 どうやら先程の声の主は、黒髪ショートカットの女子生徒だったようだ。


「通ってたけど、もしかして君も?」


「うん。私のこと覚えてない? あの道場で、相馬君とは唯一の同学年だったんだけど」


「えーっと……」


 過去の記憶を辿ってみると、確かに同学年の女子がいたような気がする。

 しかしあの頃の俺は男子連中とばかり一緒にいて、その女子とは話したことがなかった。

 彼女の名前は、確か。


「友だちに恵奈ちゃんって呼ばれてた子か?」


「そう! フルネームは目黒恵奈!」


 目黒は俺が自分のことを覚えていた事実に、嬉しそうな声を上げた。

 思い出せてよかった。そして目黒が自分からフルネームを名乗ってくれてよかった。苗字はまったく思い出せていなかったから。


「相馬君、剣道は続けてる? どうしてこっちに戻ってきたの?」


 彼女は同時に二つの質問をしてきたが、片方の問いにだけ答えることにした。


「中学の頃は剣道部だったな。高校には剣道部が無かったからやってなかったけど、この高校にはある?」


「あるよ! 私、剣道部なの。部員が少ないから、もし可能なら入ってほしいな」


 高校自体の生徒数が少ないから、当然部員の数も少なくなるのだろう。

 剣道部に限らず、どこの部活動も人数が少なそうだ。


「実は入部したいはしたいんだけど、俺この町でバイトをするつもりだから、出席率が低くなっちゃうと思うんだ」


「この町でバイト? たぶん募集してないよ?」


 目黒の言葉に驚いて周囲を見ると、俺の周りに集まっていた生徒全員が頷いた。

 ……マジで?


「ここは東京みたいに人口の多い町でもないからね。休憩中は店を閉める形で、一人で店を営業する個人店が多いんだ」


「でもスーパーもあるよな?」


「あるけど、この時期バイト募集はしてないと思うよ。バイト希望者もパート希望者も、スーパーに集中するからね。たぶん満員だよ」


 アルバイトをして少しでも稼ごうと思っていた俺の予定は崩れ去った。

 東京ではどこの店でもアルバイト募集のチラシを貼っていたから、人口の少ないこの町はもっと人手不足だと思ったのに。


「じゃあみんなはどこで稼いでるんだ?」


「運よくバイトに入れた子もいるし、実家の店を手伝ってお小遣いをもらってる子もいるよ。単価は安いけど内職してる子もいるみたい。あとは……」


「あとは?」


「ねえ、相馬君は今日の放課後、暇かな? 校舎内を案内するよ。どこに何の教室があるかは、まだ全部把握してないよね?」


 今、露骨に話を変えられた気がする。

 もしかして、おじさんといかがわしいことをしてお金をもらっている生徒がいるとか、そういう類の話だろうか。

 その稼ぎ方は俺には再現不可能だから詳しく聞く必要もないと思い、変えられた話題に乗ることにした。


「ありがとう。案内してもらえるとすごく助かる」


「じゃあ放課後に。積もる話もあるから、お喋りしながら校舎内を歩こう」


 積もる話……目黒とは小学生の頃は挨拶程度しかしたことがないのに、積もる話なんてあっただろうか。

 俺が首を傾げたところで、次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。




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