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第2話


 放課後。俺は目黒に連れられて校舎内を歩いていた。

 校舎は年季を感じさせる建物の割に、綺麗に保たれている気がする。


「この高校は掃除に力でも入れてるのか?」


「掃除に力? ああ、校舎が綺麗なのは業者が掃除してくれるからだよ」


「高校が掃除の業者を入れてるのか?」


「入れてると言うか、理事長のご機嫌取りで自主的にやってると言うか……」


 理事長はこの村の権力者なのだろうか。

 それにこの高校は学費の面でかなり気になることがあるのだが、目黒に聞いても良い話だろうか。

 少しの逡巡の末、他に聞けそうな相手もいないため、やはり目黒に聞くことにした。


「この高校って私立なんだよな? それなのに学費がやたら安くて驚いたんだけど、どうなってるんだ? 理事長は慈善事業のつもりで高校を運営してるのか?」


「慈善事業なんてとんでもない。餌を撒いて獲物を呼び込んでるんだよ」


「……獲物?」


 なんだろう、この言い回しは。

 もしかして生徒は授業料として臓器を取られでもするのだろうか。そんなまさか。いや、しかし……。


「臓器売買は違法だよな?」


 嫌な想像に顔を蒼くする俺を見た目黒は、くすくすと笑い始めた。


「相馬君、ビビりすぎだよ。高校が臓器売買なんてやってるわけないじゃん」


「そう、だよな?」


 では目黒のこの反応は何なのだろう。

 先程露骨に話を変えたのも、気になると言えば気になるし……。


「ここが音楽室。今は軽音部が使用中みたいだね」


 俺は首を傾げるばかりだが、目黒は何事も無かったかのように校舎案内を再開した。

 それにしても軽音部か。前に通っていた高校にも軽音部はあった。

 しかし失礼な話だが、この小さな高校に軽音部があるとは思わなかった。


「ちょっと疑問なんだけど、部活って何種類くらいあるんだ? そんなに人数の多い高校じゃないよな、ここ」


 一クラスが約三十人、単純計算で三学年合わせて九十人。

 あまりたくさんの部活動が存続可能とは思えない。


「この高校では、部活には何種類入っても良いことになってるの。だから兼部してる生徒も多いんだ」


 なるほど。兼部可能なら部活動の種類が多くても存続が可能そうだ。

 きっと顧問になる先生も複数の部活動を兼任しているに違いない。


「今ある部活は、軽音部と美術部と写真部と、陸上部とテニス部と卓球部とボクシング部と柔道部と新体操部、それに剣道部の、全部で十個」


 目黒が指を折って数えながらそう言った。


「へえ。少人数でも活動可能な部活が多いんだな」


 メジャーな野球部やサッカー部が無いのは、必要な選手の人数が多いスポーツだからだろう。


「言われてみるとそうかも。だけど今ある部活でも、年によっては団体戦が難しい部員数だったりもするんだよ」


「兼部が可能なのに?」


「兼部してる人も多いけど、部活自体をやらない人も多いから」


 それはそうだ。前に通っていた高校でも、部活動に活動的な生徒もいれば、授業が終わった瞬間に帰宅する生徒もいた。

 そういう生徒たちは部活動の代わりにアルバイトに精を出したり、恋に遊びに青春を謳歌したりしている。

 この町でもそういった生徒が多いのだろうか。


「あれ。でもバイト募集は少ないんだよな? 部活をしないならその人たちは放課後に何をしてるんだ? 失礼だけど、この町には遊ぶところも少なそうだし」


 俺に質問をされた目黒は、少し考え込むような仕草をしてから口を開いた。


「家で絵を描いたり、プラモデルを作ったり、ゲームをしたり、いろいろだよ。それより相馬君は隣町に住んでるんだよね? どうしてこの高校に来たの? 小学生の頃は隣町の小学校に通ってたのに」


「俺の家は町で区切ると隣町だけど、この町との境界線付近にあるんだ。だから隣町の中心部にある高校よりも、この町の高校の方が距離的には近い。でも小学校は町ごとに入学する学校が決められてたから、隣町の学校に通ってたってわけだ」


 俺の話を聞いた目黒は納得したように頷いた。


「このあたりは過疎地って言うほどでもないけど、人口が少ないからね。町に何個も学校を作る余裕が無いんだよ、きっと。私の家も高校から結構離れたところにあるもん」


「電車が通ってたら離れてても楽なんだけど、ここにはそういうのは無いからなあ」


 この町の基本的な移動方法は、車か自転車か徒歩だ。

 バスが走ってはいるものの一時間に一本とかそのレベルで、時間帯によっては三時間くらい待たされることもある。

 ……って、あれ。もしかして今、また目黒に話題を変えられたのだろうか。

 帰宅部の生徒が放課後に何をしているのかという質問に、一応は答えてくれたが、俺が深く聞かないように話を変えられた気もする。

 やはりこの町ではパパ活が横行しているのだろうか。





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