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再生と希望
再生と希望
Yukiumei
文芸・その他雑文・エッセイ
2025年05月15日
公開日
683字
連載中
春の終わり、古い木造家屋の軒先に、一羽のツバメが舞い戻ってきた。

第1話

この家はもう何年も人が住んでいない。屋根瓦はところどころ欠け、雨の日には土間に水たまりができる。けれど、ツバメにとっては確かな記憶の場所だった。


かつてこの家には老夫婦が暮らしていた。優しい笑い声と味噌の香りがいつも漂っていて、ツバメはその温もりに惹かれるように、毎年同じ場所に巣を作った。

夏の初めにはひながかえり、秋には巣立ち、そしてまた翌年に戻ってくる。その繰り返しが、いつしかツバメにとっての“帰るべき日常”になっていた。


だが、数年前、家の主はひとり亡くなり、もうひとりは町の老人ホームに引き取られた。それ以来、この家には誰も訪れず、時間だけが静かに積もっていった。


今年、ツバメはまた戻ってきた。

風が吹くたびに木が軋み、雨樋からはつる草が垂れていた。けれど、軒の角、いつもの場所に、かすかに残る古い巣の跡を見つけると、ツバメはためらうことなく羽を休め、土や藁を運び始めた。



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