数日後、近所の小学生がその姿に気づいた。
「お母さん、ツバメが帰ってきてるよ!」
母親は目を細めて言った。「あの家、今年も巣を作ってくれたのね。」
それをきっかけに、誰も寄りつかなかった家の前に人が集まりはじめた。
誰かが草を刈り、誰かが壊れた雨戸を直し、誰かがツバメの様子を日記に書いた。
ツバメは何も知らないまま、ただ雛たちに餌を運び続ける。けれどその姿は、忘れられていた場所に小さな命の炎をともした。
やがて夏が過ぎ、雛たちは大空に羽ばたいていった。
ツバメもまた、空高く舞い上がり、遥か南を目指す。
けれど、来年もきっと、この家に戻ってくるだろう。
その時、もう一度誰かが、また微笑んでくれるように。