君がいなくなってから、今日でちょうど一年になる。あの日も今日と同じように、桜が満開だった。君は「じゃあね」と笑って手を振り、そして……そのまま戻ってこなかった。
失踪。誰もがそう言った。警察も、学校の先生も、君の両親さえも。けれど僕だけは、あの日の君の表情が、どこか決意を秘めていたように感じていた。
「君は、自分で消えたんだろ?」
何度もそう思い、何度も否定しようとした。だけど今日、ふと風に乗って届いた香りに、僕の心は揺れた。君が好きだった、あの金木犀の香り。春には咲かないはずのその香りが、確かにそこにあった。
振り返ると、そこに——
マンションのポストに、差出人不明の手紙が届いていた。封筒は無地で、宛名には僕の名前だけが丁寧な筆跡で書かれている。
恐る恐る開けると、中からは短いメモと、一枚の写真が出てきた。写真には見覚えのある風景。山あいの小さな駅舎と、そこに立つ後ろ姿の少女。間違いない——それは、君だった。
メモにはこう書かれていた。
「まだ、間に合う。4月1日、午前10時。終点の駅で待ってる。」
心臓が大きく脈打つ。これは、誰かの悪戯なのか。それとも……君が、本当にどこかで生きていて、僕を呼んでいるのか。
僕はカレンダーを見つめながら、意を決した。明日——僕はその駅へ向かう。