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第15話 vsエレメント・マスター

「エレメント・マスター?何の話だ?私は四条王喜の様な偉大な天才ではないぞ」


目出しの赤マスクを被っているので、正体を隠したいというのは分かるが……その状態で自分を大絶賛するとか、何かのネタかと首を捻りたくなる。真面目に話してるんだとしたら、余りにも痛すぎるぞ。


「じゃあ誰だってんだ?」


「我が名はシジョーンマスク!悪しきを挫く正義のヒーローだ!」


四条はマントを大仰に翻し、人差し指を頭上の月に向ける。なにその変な動き。


てか、隠す気ある? ない? どっち?


「学園の風紀を守る正義の人、四条王喜の覇業を阻むその無知蒙昧な行動!神が許してもこの四条王喜が……じゃない!四条マスクが許さん!!」


名前が一瞬で変わってるんだが?


強さと人間性は比例しない。だがこれだけは言える。


馬鹿に強い奴はいない。

と。


四天王と呼ばれてはいても、所詮上から4番目ってだけなのだろう。その実力は、氷部とは天地レベルの差がありそうだ。


「だから闇討ちすると?」


「闇討ちではない!人前で叩きのめされては貴様が恥をかくだろうからな。優しさという奴だ」


「優しさ……ねぇ」


昼間、四条の取り巻きが問題を起こすのは不味いと奴を止めていた。この性格だ。他でも問題を起こしまくっている事は想像に難くない。


きっと今の立場にリーチが掛かってるから、正体を隠してこそこそと闇討ちを狙ったのだろう。優しさが聞いて呆れるぜ。


「まあいいや。あんまり時間をかけると理沙に心配かけちまうからな。さっさとやろうぜ」


どうも、お客さんはもう一人いるみたいだしな……


「理沙だと!私のガールフレンド兼、風紀委員の諜報員を気安く下の名前で呼ぶな!」


理沙の能力は、動物と心を通わせるという物だった。それは上手く使えば、動物を自在に操れる可能性を秘めている。小さな動物は諜報活動には持って来いであるため、四条はそれを期待して彼女を風紀委員に誘ったのだろう。


因みに、ガールフレンドの件に関しては只の女好きなだけな様だ。他にも声をかけまくってるって理沙が言ってたし。


「本人からちゃんと許可は貰ってるぞ」


寧ろ相手からの要望だ。他人に文句を言われる筋合いはない。


「な、なんだと!まさか付き合ってるのか!?私にすらまだ彼女が居ないというのに!」


そりゃ学内で大々的に女口説きまくってたら、そうなるだろうな。それ抜きにしても、性格の方にもあからさまな難ありだし。


俺が女なら絶対こいつは選ばん。それならまだ泰三の方がましだ。


「生意気な!生意気だぞ!下民風情が!?」


「誰が下民だ。誰が」


中流の一般家庭だっつうの。失礼な。


「はぁ……お前と話をしてると頭が痛くなってくる。もうこっちから行っていいか?」


「このエレメント・マスターに仕掛けるだと?ふん!身の程知らずが!!」


堂々と名乗りやがった。頭に血が上って、もう自分が何をやっているのかさえ忘れているのだろう。こんなんで良く風紀委員長になれたもんだ。


「良いだろう!今から貴様を処刑する!だがその前に、一応名だけは聞いておいてやろう!」


「聞いてどうするんだ?」


「ふ、これだから下賤な人間は困る。決闘前に名を名乗るのは当然のマナーだろうが」


顔を隠して、身分詐称を試みてる――全然出来てないけど――人間にマナー云々言われたくはない。そもそもこれは決闘ではなく、どう見ても闇討ちなんだが……まあ付き合ってやるとするか。


「俺の名は鏡竜也だ」


「鏡竜也か。子悪党らしいちんけな名だ……ん?鏡竜也?」


四条が眉根を顰めて――マスク越しにもはっきり分かる――首を捻った。どうやら俺の名に心当たりがある様だ。まあ風紀委員長な訳だし、氷部からでも聞いたのだろう。


「まさか……新規編入生か?」


「ああ、今日から高等部1年生だ」


「ぬ……」


四条の顔が強張り、一歩後ろに下がる。雑魚だと思っていた相手が強敵だと知り、たじろいだって所だろう。


「どうする?尻尾を巻いて逃げ帰るか?」


「ちょ……調子に乗るな!どうせ卑怯な手で氷部に勝ったんだろうが!そうでなければ、あの女がお前如きに負ける訳がない!」


叫ぶと同時に、四条は掌を頭上に掲げた。その先――奴の頭上に巨大な火球が発生する。

泰三が訓練場で俺に見せた炎の三倍以上はあるな。流石に四天王と呼ばれるだけあって、火力はそこそこある様だ。


「我が怒りの炎を受けよ虫けら!!」


奴が掲げた手を俺に向ける。それに合わせて頭上の火球が俺に向かって飛んできた。


「誰が虫けらだ」


俺は真っすぐ飛んで来るそれを横に飛んで躱す。外れた火球は背後で爆発し、火柱を高々と上げ周囲を赤く照らしだした。この様子だと直ぐに人がやって来そうだ。まあさっさと終わらせるとしよう。


「今度はこっちが行かせて貰うぞ」


俺は地面を強く蹴り、低い姿勢で奴に突っ込んだ。


「この四条王喜を舐めるな!」


奴の声に呼応するかの様に、四条の足元が泡立つ。次の瞬間、土が盛り上がり巨大な壁が俺の目の前に生み出された。


「っと」


壁の前で足を止めた俺は、素早く後ろに飛びのく。さっきまで俺の居た場所で「バシンッ!」と見えない何かが弾ける音が響いた。


「成程。土壁で防いで、見えない風で死角からの攻撃か。悪くない攻撃だ」


普通の生徒なら、今のを真面に喰らっていただろう。ナンバー4なだけは有って、面白い攻撃をしてくる。だが俺は周囲の気配を感じ取る事が出来た。残念ながら、只見えないだけの攻撃など通用しない。


「ちっ、外したか。運のいい奴め!」


「運じゃなくて実力なんだがな」


「ほざけ三下!」


再び火球が放たれる。パワーは中々の物だが、如何せん攻撃が直線的すぎる。当然そんな物は当たらない。


「よっと」


飛んできた攻撃を軽く躱し、再び奴に突っ込んだ。


「無駄だ!」


四条が再び分厚い土の壁を俺の目の前に生み出す。だが今度は止まらない。


そのまま突っ込み――


「それはこっちの台詞だ」


――拳を叩きつけて壁を吹き飛ばした。


目の前には、土を浴びて顔を歪める四条の姿。俺はその顔面に迷わず拳を叩き込んだ。


「ぶべしっ!」


変な声を上げて奴は吹っ飛び、地面に勢いよく転がる。手加減してるので死ぬ様な事は無いだろうが、まあ暫くは目を覚ます事は無いだろう。


――さて、次だ。


「いつまで見てるつもりだ?こないなら……こっちから行くぜ?」


「敵対する意思は御座いません」


声を掛けると、もう一人の追跡者があっさりと暗がりから姿を現した。おかっぱにぐるぐる眼鏡の女生徒だ。特徴的なのは、身に着けている制服が真っ黒だという事だろうか。


「ひょっとして……あんたがグングニルか?」


「まさか」


尋ねると彼女は小さく首を横に振って答えた。俺の勘が、彼女の力は氷部クラスだと言っている。だから四天王の1人かと思ったのだが、どうやら違った様だ。


まあ校内戦は強制じゃない――出た方が成績に色がついて、後々就職で有利になる程度だ。あえてそう言った物には出ない実力者が居てもおかしくはないだろう。


「私の名は茨城恵子いばらぎけいこ。生徒会で副会長をしている者です。此処へは……彼の回収の為やって来ました」


茨城恵子が四条の元まで歩いていき、まるで物でも扱うかの様に気絶している奴を雑に肩に担ぎ上げた。


「問題行動が多い方でしたので、見張っていたのです。彼には然るべき処罰が待っており、二度とこういった行動は起こさせませんのでご安心を」


茨城はそれだけ言うと踵を返し、音もなく闇の中に消えていった。その動きはまるで忍者だ。


「見張ってたんなら事前に止めろよな……ま、いいけど」


因みにEだった。何処がとは言わない。


「四条とのどうでもいいやり取りで、無駄に時間を喰っちまったな。さっさと戻るか」


俺は急いで飼育ゾーンへと戻る。小屋の入り口に着いた所で、中から皇の笑い声が聞こえて来た。扉を開けて中に入ると、生まれたばかりっぽい子狼を大事そうに抱えている彼女の姿が目に入って来る。


「……え?まじで?」


「へへ、生まれたぜ。3匹だ」


どうやら俺が外に出ている間に生まれてしまった様だ。一番重要なタイミングで出かけてるとか、俺は何しにここに来たんだろうか?


「わりぃ……」


全ては四条のせいだ。こんな事ならもっと強くぶん殴っとけばよかった。


「ははは、気にすんなって!あたしもびっくりする位の安産で、するっと生まれて来たからな!」


皇は御機嫌だった。小狼が元気に生まれて来たのが余程嬉しいのだろう。


「第一、こうして無事に生まれて来たのは竜也のお陰だからな」


そう言うと彼女は抱えていた狼を親の元に戻し、ケージから出て来た。そして――


「ありがとう」


彼女の顔が迫り、俺のほっぺに柔らかくて温かいものが触れる。


「へへっ」


照れ臭そうに笑う理沙の顔を見て、「ふ、俺に惚れるなよ」とちょっと格好つけてみた。勿論心の中で。会って初日の女子が俺に惚れる等と、本気で考えるほど俺も馬鹿じゃないからな。

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