「ねぇねぇ!鏡君って格闘技か何かやってるの?」
「部活は?」
「髪の毛を伸ばす能力って凄く便利だよね」
訓練が終わると同時に、女子達に思いっきり囲まれてしまった。
一体何だってんだ? まさか千堂先生との組手の影響だろうか? 考えられる原因があるとしたら、それだけだよな?
「彼女とかいるの?」
「なんだったら私が立候補しようかな」
まあ何にせよ――これは間違いなくモテ期だ。
モテ期とは、人生に3度程訪れるという、異性から極端に好かれやすくなる時期の事を指す。まさにその第一波が俺に訪れたと言っていいだろう。
「うちの部に来なよ。鏡君だったらエース間違いなしだよ」
「何言ってんのよ!部だったらうちようち!」
「ハイハイ!ストップストーップ!」
グイグイ距離を詰めて来る女子と俺との間に、空条が強引に割り込んで来た。
「いきなり大勢で詰められても、鏡っちが困るでしょ!ここは私、不肖空条真奈美が取りしきるぜい!」
空条が気を利かして……というよりも、面白そうな事なので首を突っ込んで来た感じだな。まあ俺は聖徳太子じゃないから、大勢で来られたら対応に困るのは事実だ。だからまあ、助かるっちゃ助かる。
「因みに部の勧誘は諦めて!鏡っちは孤高の帰宅部を貫くらしいからね!」
「え?」
俺はそんなものを宣言した覚えはないんだが?
まあ確かにこの2週間、さっさと寮に帰って自室でプラーナ増幅用の瞑想ばかりしていたのは確かだが、だからと言って別にクラブ活動に興味がない訳ではない。面白い所があれば入ってもいいかとは思っている。
「何せ!大親友の誘いを断ったぐらいだからね!」
ん? 大親友?
誰の事だ?
全く思いつかないのだが?
因みに超次元サッカー部を袖にしたのは、活動内容が余りにもアレだったからだ。孤高とやらを貫く為ではない。
「じゃあ並んで並んで!」
空条が鼻息巻いて女子達を仕切り、整列させ始める。その時、突然道場の扉が開いた。
「やだっ……うそ……」
「王子よ!王子だわ!」
「きゃあ!王子!」
中に入って来た人物に気づき、こっちを見ていた女子全員が俺に尻を向けて黄色い声を上げだす。そして整列が崩れ、並んでいた女子達が波の様にそいつに押し寄せた。
「ありゃりゃー、まさかの王子登場。鏡っちのモテ期、終わっちゃったね」
俺のモテ期、たった5分以下とかいくら何でも短くね?
ポンと肩を叩かれ振り返ると、そこにはいい顔をした泰三と理沙が――
「お帰り。友よ」
「ざまぁ」
取り敢えず無言で泰三のすねを蹴り飛ばす。理沙は女の子だから見逃してやるが。
「しっかし……」
道場に入って来た男――王子とやらは、何故か真っすぐ俺の方に向かって歩いて来る。何か用でもあるのだろうか?
女子達が騒ぐだけあって王子の顔立ちはかなり整っており、その動きに合わせ、興奮しきっている女子達の壁も此方へと移動してきた。何とも言えない光景だが、これだけはハッキリと言える。
何かすっげームカつく、と。
「君が鏡竜也か?」
王子が目の前で止まる。やはり俺に用件があった様だ。しかし俺はこいつの事を知らないのだが?
「あんた誰だ?」
「ちょっと鏡!あんた王子になんて口の利き方してんのよ!」
「王子に失礼でしょ!!」
「「そーよそーよ!」」
ちょっと尋ねただけなのに、周りの女子達に思いっきり噛みつかれてしまう。清々しいまでの掌返しに、女はこえーなと俺は肩を竦めた。
「彼に用事があるんだ。黙っていてくれないか」
「「はいぃ、王子ぃ」」
王子に声を掛けられて嬉しいのか、女子達の顔が惚け、まるで夢見心地の様な表情に変わる。目をハート型にするというのは、きっとこういう状態の事を言うのだろう。
「俺の事は、
金剛劔……こいつがグングニルか。さっき千堂先生が俺に興味を持っているとは言ってたが、まさかその直後に俺を訪ねて来るとはな。流石に予想外だ。
「用がある。少し顔を貸して貰おうか」
金剛は顎先で道場の外を指した。人前じゃ駄目って事は、勝負を挑まれたと考えて良いだろう。決闘の類は、この学園じゃ基本禁止されているからな。
「いいぜ」
俺の返事を聞いた金剛は、口角を上げてにやりと嬉しそうに笑う。そして踵を返し、そのまま道場の出口に向かって歩き出した。
「おいおい鏡。金剛って言ったら四天王だぞ。下手について行ったらどんな目に合わされるか……」
「大丈夫だよ」
理沙が心配そうに声を掛けて来るが、俺は笑顔で返した。さて、