なのに、すぐさま「……お前が俺にそれを言うか?」と
確かに部長の股間事情とか色々聞いた上に、やたらエッチな目で部長の〝
「……前言撤回します、すみません」
「分かったんならよろしい。あー、あと……誤解してるようだから一応弁解させてもらうがな、俺が言いたかったのはつまり、彼氏の泊まり用に男物の服とか置いてないのか?ってことなんだが」
言われて、羽理は(ああ、なるほど!)と思った。
その上で、思わずやや食い気味。
「あったら着ちゃうんですか?」
(えー。隠しちゃうだなんてもったいないです! もう少し見てたいです、部長の
そう付け加えそうになっただなんて言ったら、今度こそセクハラ女だと訴えられそうなので、羽理は黙っておいた。
けれど心底ガッカリしたのは見抜かれたらしい。
「俺が裸だとお前にとって何か都合がいいのか?」
「めっ、滅相もございません!」
とソワソワしてしまった余り、
「お、男の人の裸なんて普段からめっちゃ見慣れてますので!」
とか大嘘のハッタリをかましてしまった。
「ほぉー、それは期待できそうだ。――で、実際のところどうなんだ?」
「え?」
「だからっ。男物の服があるのかないのかって話」
「あ、そ、そのっ……ざ、残念ですっ! い、今っ丁度っ、か、彼氏を
なんて、店の棚にある商品在庫を
その上で内心、
(しょ、初対面の上司に自分の身体を見て反応するか否か聞くような女ですよ!? 彼氏いたら普通そんな馬鹿なこと聞きませんよね!? 部長様ならそのくらい察して頂けませんかね!?)
などと脳内でまくし立てるように思っていたりする。
「あー、すまん。何か俺……、色々配慮が足りてなかったみたいだな……」
だが、あっさりと嘘を見抜かれたみたいにそう結論付けられては、何となく女性としての
「本当それですよ。――
それで苦し紛れにそんなことを言ったら「何だそれ」と苦笑されて。
「なぁ、ちなみに聞いてみるんだが……ここの住所は?」
タイミング
(むぅー、覚えてなさいよぉー!?
などと部長様をフルネームで呼び捨てにして毒づきつつも、表面上はけろりとした顔を取り繕いつつ。
「……えっと、
その途端、
「ああ、くそっ! マジか!」
と
「部長のお住まい、もしかしてここから遠いんですか?」
と、問うてみたくなった。
「――俺ん
だってここから会社までは車で二〇分は離れているのだ。
(何でそんな距離をわざわざ真っ裸で、よく知りもしない部下の家まで押し掛けてきましたかね?)
羽理は、今更ながらそう思わずにはいられなくて。
「あのぉー、
『電撃・突撃・部下のお宅訪問★』をするにしても、服くらい着てくればいいのに――。
スーツとまではいかずとも、最低でもパンツくらいは履いていらっしゃいな。
っていうか普通の人は真っ裸で出歩いたりしないよね?
ひょっとして……裸族?
色々謎過ぎて思わず小首を傾げたら、「俺だって来た覚えはねぇんだよ」とか。
「えっ? でも……現に今」
「俺も何でこんなことになってんのかめちゃくちゃ知りてぇんだがな。――お前にも心当たりはないのか?」
「んー。残念ながらありません」
「だよなぁぁぁぁ」
さぁ、風呂から上がろうと扉を開けたら何故か目の前に裸の羽理がいて、何が何だか分からなくて戸惑ったのだと言う。
「っていうか普通それ、一番に聞くことだよな?
なんて、しみじみ言われたのを無視して、羽理は思わず問いかけていた。
「あのっ。部長ってもしかしてまだ童貞さんで……なおかつ魔法が使えちゃったりなんか……」
「しねぇわ! それに……童貞でもねぇ!」
三〇歳まで童貞だと魔法が使えるようになると言うボーイズラブものの漫画を読んだことがあるけれど、どうやら部長様はそうではないらしい。
(女性経験もあるみたいだし!)
自分から言わせたも同然なのに、眼前の美丈夫が誰かとエッチなことをしたことがあるんだと思ったら、何となくムカッとしてしまった羽理なのだ。
(私はまだなのに!)
理不尽なことを思ってプンスカしている羽理をよそに、
「なぁ、荒木。一つ相談なんだが……」
ややして羽理は、
***
脱衣所で一旦外へ着ていけそうな服に着替えた
・クルーソックス
・Tシャツ
・トランクス
・黒いつっかけサンダル
・レインポンチョ
全て
「ズボンはなかったのか」
「残念ながら」
仕方なく、Tシャツとトランクスを身に着けてみたものの……。
「これに靴下履いたら死ぬほどアンバランスだろ」
想像しただけで余りのシュールさに自分でも笑えてしまう。
まぁサンダルは外を歩くのに必要だとして、ソックスとレインポンチョは何のために買ってきた!?と思ってしまった
「レインポンチョ羽織ったら色々誤魔化せませんかね!?」
ポンチョを片手に眉根を寄せる
「いや、雨も降ってねぇのにこんなん着てたら
警察から職務質問なんて受けようものなら、ポンチョの下はズボンなしのトランクス。
変質者認定されてお縄になること請け合いではないか。
とりあえず
荒木が買って来てくれた適当な衣服に身を包んで、タクシーで自宅まで帰れば何とかなるだろうと思っていたのだけれど。
さすがにこれは、と思って……。
「なぁ、荒木。迷惑ついでにもう一つ聞いてみるんだが……お前車とか」
「持ってますよぅ? イエローがまぶしいビタミンカラーのダイハチュのコッペンちゃんです」
それはツーシートのオープンカータイプの軽自動車の名だ。
「もちろんルーフは閉まるよな?」
「閉まりますけど今の時期はフルオープンも気持ちいいです!」
一応スポーツカーと言う部類の車なので、街中を
だが――。
「ちゃんと礼はするから、しっかりルーフを閉ざした状態でうちまで乗せて帰ってもらえないだろうか」
この姿で外へ出るとなると、なるべくなら密閉空間にしてもらえた方が有難いと思ってしまった
「えっ。いいですけど……高くつきますよぅ!?」
今ここにあるモノたちも、身ひとつでワープしてきた(?)
ニヤリと笑って
「まぁそれは任せておけ。フルコースのディナーでも何でも食わせてやろうじゃないか」
「本当ですかっ!?」
「ああ。だが、原因が不明な限り、お前がうちに飛ばされてくることもあるかも知れんと思って動けよ?」
ククッと笑った
ササッと隣室へ走り去ってしまう。
「お、おい、荒木っ!?」
何事だろうかと思っていたら、荒木がアパレルブランドの袋に何やら詰め込んで戻ってきた。
「これっ。部長の家に置かせて下さい! ――あ、でも……勝手に中見たらしばき倒しますよ!?」
「はぁっ!?」
いきなり一体何だ、と思った
「いや、待て! これ、全部お前チョイスだからな!?」
思わず
「いやっ。逆にそれ、全部身に付けたらもっとおかしなことになってるからな!?」
そう返しながらも、