(その上目遣いはやめろ、
とソワソワと顔を背ける
「……実際お話してみると、ちょっぴり
と問いかけてくる。
「や、
「……居ないですね」
「だろ? だから……、それは俺のことだ」
若い頃、
同期たちを差し置いて一人課長に昇進してからは、それがますます顕著になって……。
以前にも増してやたらと女子社員から囲まれまくるようになって、要らぬ噂や誹謗中傷まで飛び交うようになり、仕事にも支障が出始めたから。
(……面倒くさくて塩対応してたら、鬼だのゲイだの言われ出したんだよな)
那須から話を聞いたのなら、羽理も鬼課長の話だけではなく後者の噂も耳にしたはずだ。
(何せ、俺が相手にしなかった腹いせにそういうデマを流した張本人が那須だしな)
だが羽理は、
(そういうところが……お前をますます好きにさせるんだぞ? 分かってんのか、荒木羽理っ!)
「じゃあ……きっとあの噂はデマですね。ぶちょ……、たっ、……たい、よぉ?……がそんな感じの人じゃないのは私、知ってますもん。ほら、今日だってわざわざ私のためにお買い物付き合ってくれてますし……全然鬼っぽくないです」
すぐそばで「へへっ」と笑い掛けてきた羽理にそんな追い打ちを掛けられて、
(おっ、お前は俺を殺す気か!)
羽理の不意打ちのこういう態度は心臓に悪い。
「あのっ、部長、ひょっとして具合が悪いんですか?」
「ぶちょぉじゃなくて……た、いよう……な?」
ドキドキと騒がしい心臓を
***
(もぉ、ホント、この人はどうしようもない
深呼吸を繰り返しながらも途切れ途切れに呼び名を訂正してきた
溜め込んだ吐息を一気に吐き出すように、盛大に溜め息をこぼさずにはいられない。
(けど……そこまで言うんなら私、遠慮しませんから! 後からやっぱり上司としての威厳が!とか言って来ても知りませんよ!?)
もうここまで意地を張られたら、こっちだって開き直ってやる!と決意した羽理だ。
「……あのね
胸元をギュッと握りしめたまま呼吸を荒くした
そのあからさまに
「にぎゃっ……!?」
グッと年齢差を縮められたような錯覚を覚えた
最近やたらと遠慮なく急接近されていたので失念していたけれど、元々
その
(ヤダ! 不整脈っ!?)
と思った。
きっと今この場に
実は羽理、
もちろん、最推しであるところの
トクン!の意味を、斜め上に解釈してしまった。
「あ、あのっ。……もしかして
羽理は今まで会社が行う健康診断で、心電図などの検査で引っかかったことは一度もないのだが。
もしかしたら
そわそわしながらそう問いかけた。
(そう思えば、やたらと彼が心配性なのも、もしかしたら部長自身、身体が弱いからだったんじゃ?)
なんてことまで思った羽理は、そこでふと、薄らぼんやりとではあるが、先日酔って帰った日に
(あれはそう言うことだったんですね。何か言うこと聞かなくてホント、すみません)
幸い自分の方はそれほど酷い発作ではなかったようで、今は何ともない。
だけど背後から急に「わ!」と驚かされた時みたいに心臓が暴れてびっくりしたことは、まぎれもない事実だ。
(あれが今も継続中となると、相当苦しいんじゃない?)
「ホントに大丈夫ですか?」
「あの……だったら……手を――、この手を放して頂けませんか……?」
ギュッと繋がれたままの手を持ち上げて、恐る恐る言ってみた羽理だった。
***
「あー。……やっぱ、手も距離もこのままでいい……」
ぼそぼそとつぶやくように言って、羽理の手を恋人つなぎの要領でギュッと指を絡めて握り直すと照れ隠し。
羽理の方を見ないままに「――で、何がいるんだ? うちに置いとくやつだから心配しなくても全部俺が買ってやるぞ? 遠慮なく好きなのを選べ」と畳みかけた。