ちょっと
ゆるふわな髪の毛をクラウドマッシュに仕上げたその男は、明るい印象のキャラメルブラウンの髪色をしていて、見るからにチャラい。
それで、即座に(ナンパか!?)と思ってしまった
何せ羽理は
ちょっぴり釣り気味の大きな瞳は、じっと見詰められると思わず戸惑ってしまうほどに
(ま、口開いたら相当残念なんだがな……)
と――。
「――ここで会えたのも何かの縁ですし、これから俺と一緒に食事でも……」
チャラチャラした雰囲気のスーツ男が、あろうことか羽理にそんなことを言っているのが耳に入って。
思わず手にしていたかごをヌッと二人の間に突き出して、「
なのに――。
「え? ――や、くみの……ぶちょ? ちょ、ちょっと待って? 何で先輩が部長と一緒にいるんっすかっ!?」
とか――。
(ん? 何やら俺を知ってるようだが俺はお前を知らん! キサマ、一体何者だ!?)
目を白黒させて自分と
(俺のことを知ってて……なおかつ羽理のことを先輩呼ばわりするってことは……もしや会社の人間か?)
ややして、そう思い至った
すぐさま、(まぁ、けど……うちの部の人間じゃねぇな)と言う結論に達した。
そもそも自分のすぐひざ元にいた羽理のことすら――こんなに可愛いのに!――眼中に入っていなかった
若い頃、目を惹く外見のせいで酷い目に遭ってきたのもあって、基本自分と関わりのない他者には線引きをして過ごしている
だが眼前のチャラ男の、羽理との距離感が気に入らない!と言うことだけはハッキリと分かったから。
「……俺の名前を知っているということは――キミもうちの社の人間か?」
聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず当たり障りのないところから、なるべく感情を抑えて問い掛けてみることにした。
(大体俺より背が高いと言うのも気に入らん!)
「あ、はい。俺も……
そう答えるチャラ男を
「ちょっ、
目の前の男のせいだろう。
折角名前呼びをしてくれていた羽理が、苗字+役職呼びに戻ってしまったではないか。
そのことも非常に面白くないと思ってしまった
「……
ちらりと羽理に視線を落とすなり、わざと〝羽理〟のところを強調してそう告げたら「ばっ、バカなんですかっ!? 五代くんがいるのに!」とか。
(バカ!? ちょっ、お前的にはそうかも知れんが、俺としては五代がいるからこそ!なんだがな!? それに……そんなに俺と付き合ってるのがバレたくないのか、
などと思っている
「あ、あのね、
羽理は懸命に
その目は明らかに『手、離して下さい』と訴えてきていたが、
その徹底ぶりに観念したのだろう。
羽理が、小さく吐息を落とすなりスッと手の力を抜くと、「
(羽理が教育係をしていた後輩……?)
――だからやたらと懐いているのか。
そう思いはしたものの、どうにも納得がいかない。
そもそも、自分にも後輩は沢山いたし、もちろん若い頃には教育係をして育てた
だが、こんなに尻尾をブンブン振って懐いてきた人間は一人もいなかったのだ。
(まぁ……人柄ってのもあるんだろうが)
実際、自分が
対して、自分は後輩たちを決して必要以上に可愛がった覚えはないし、それこそあえて事務的に必要なことのみ伝えるようにしていた。
(懐かれたくないってオーラを出してたんだ。
そう思って、自分で自分を納得させようとしていると言うのに――。
「え!? ここって……生鮮食品の扱いなんてありましたっけ?」
なんて、目の前の五代が間の抜けた声を出してくるから、『こいつ、営業の癖に本気でそんなバカなこと言ってんのか?』と驚いた。
「あっ」
その瞬間、自分の腕の中から逃れるのを諦めたとばかり思っていた羽理に、まるで
(この薄情者!)
手を解放されるなり、上司と部下としての適切な距離感を保ちたいみたいに
だからだ。
悔しまぎれにも(手塩にかけて可愛がってもこの程度のレベルにしかなんねぇとか。ホントやり甲斐がねぇな、
それに――。
五代に死ぬほど苦しい言い訳をしている羽理だって、化粧品売り場でファンデーション片手にそんなことを言っている時点で、相当無理があるではないか。
(生鮮食品はあっちの方ですよ、
そんなあれやらこれやらを
「うっ」
そのやや釣り気味の潤んだ目に一瞬で心を奪われてしまった
(くそぅ! 困り顔の羽理、めちゃくちゃ可愛いじゃねぇかっ!)
惚れた弱みというべきか。オロオロする羽理の様子に、
「営業のくせに知らないのか。ドラッグストアにも最近は生鮮コーナーがある」
――しかも下手したらスーパーより安い、と心の中で付け加えつつ。
(卵とか牛乳とかお買い得品も多いからな)
などと、ついつい主夫目線でものを考えてしまった
「マジですか」
「ああ、大マジだ。嘘だと思うならキミも後で見てみるといい。――案外近所のスーパーより安い食材とかあるぞ」
(おすすめは卵や牛乳だが、そこまでは教えてやらん)
「へぇー。俺、料理しないんであんま関係ないっすけど……」
そこでちらりと羽理に熱い視線を送った
(残念だったな。そいつは食うの専門だぞ?)
その視線が憎たらしく感じられて、つい
「うん、うん。そうするといいよぉ~。前に
(バカっ! あえて伝えなかった
「
鈍感娘羽理がヘヘッと笑いながら、
それでもさすが、断られるのには慣れっこ。マイナススタートからの相手でも上手く取り入り粘って何ぼのバイタリティ