「あ、あのっ。
懲りない
(いやいやいや! 感心してる場合じゃねぇぞ、俺!)
だがすぐに、
そんな
「えー、私? 私はお料理がからっきしダメだから。そういうのを求める人とは付き合えないかな!? あー、でもっ! 手料理を食べさせてもらうのは好きだから
そこで、すぐ横にいる
「と、ところで五代くんはお料理出来る人?」
などと取り
「あ、いや……お、俺も食う専門です……」
と
(羽理っ。今日も明日も明後日も……美味いもん、たんと食わしてやるからな!?)
一気に機嫌が回復した
「そっか。じゃあお互い自分でも少しは料理が作れるよう頑張ろうね。――ま、言うのは簡単だけど実際にやるのは難しいの、自分が一番よく分かってるんだけど」
「あ、はい、そうっすね。俺も……頑張ります!」
そんな二人の会話を聞きながら、
(はっはっはっ! どうだ、五代。脈なしだと分かったか!)
と声には出さず、心の中で勝利宣言をした
ワンコ後輩は、
「――それで
とか。
思わず「はぁ!?」と言って二人を振り向かせてしまった
「お、お前らっ。……長話が過ぎるぞ? ……羽理、さっさとそれ、かごに入れろ。生鮮食品コーナーへ移動するぞ!」
グイッとかごを突き出して羽理が手にしたファンデーションを中に入れさせたと同時――。
「――あの、さっきから気になってたんですけど……視察なのに何故ファンデーション? そもそも
***
「そ、それはっ」
助けを求めるようにすぐ横に立つ
だが――。
「キミもさっき俺たちに言っただろ。もう定時過ぎてんだ。彼女には俺の視察に付き合ってもらう代わりに好きなモン買ってやるって約束してあんだよ」
ぶすっとした調子ながらも
「なるほど。……けど、
羽理が面倒を見ている時からそうだったけれど、抜けているように見えて案外物事の本質は見えていたりするのだ。
それに加えて
(お願いだからここでそれを発揮しないでっ)
と思ってしまった羽理だ。
「そう変なことでもないだろう。彼女に付き合ってもらったのは、ただ単に仕事の出来る彼女から、女性目線での意見をもらいたかっただけだからな。キミは他部署だから知らんかもしれんが、企画管理課には今、独身女性がいない。家庭のある人間に仕事後付き合えとはいくら何でも言われんだろ? それに……」
だがそこは矢張り海千山千の部長様と言うべきか。
「いくら上司とは言え就業時間外に男と二人きりで出掛けるようなこと、パートナーがいる女性には頼めんだろう?」
(あっ、部長、いま絶対、
そう思いながらも、「じゃあね」と
そんな羽理の背中に、「
羽理は前を歩く
***
「仕方ねぇからここで卵と牛乳買うぞ。あー、あとついでに粉チーズとほうれん草も仕入れとくか」
生鮮食品売り場に着くなり、
最初に
(あああっ。おひとり暮らしの癖にそんなにたくさん食材を入れてダメになりませんかねっ!?)
そう要らぬ心配をした羽理だったのだけれど。
「お前の化粧品は別の店で買うぞ? あの男がいると思ったら、羽理も落ち着いて選べんだろ? それと――」
そこで「お、鮭フレークがあるな。魚はこれでいいか」と小瓶が二個セットになった商品をかごに入れながら
「今夜はどっかの食い物屋に飯でも連れてってやろうかと思ってたが、予定変更だ。――俺が作る」
「えっ!?」
「
「あ、あの……
「
「あー、あのっ。た、いよう……。そんな気を遣って頂かなくても私、夕飯とか近所のコンビニで適当に買って帰りますし……大丈夫ですよ?」
「何だ、羽理。俺の飯は食えんって言うのか?」
言外に〝あいつのは食いに行く気なのに?〟と付け加えられた気がして、思わず吐息を落としそうになった羽理だ。
(あー、何だか面倒なことになってきましたよ? きっとこれ、さっき
今まで接点がなかったから気付かなかったけれど、まぁ若くして部長にまで昇り詰めたような人だ。
多かれ少なかれ闘争心はないと無理なんだろうな?と思いはしたものの、羽理は正直面倒くさいなと感じずにはいられない。
「私、五代くんの手料理、食べに行くねって答えてませんよ?」
仕方なくそこは是とも非とも返答していないと告げた羽理だったのだけれど。
途端
「もぉっ。髪の毛グチャグチャになっちゃったじゃないですかぁ」
と、ぷぅっと頬を膨らませた羽理だ。
「ああ、すまんな。――けど、お前はどんなにボロボロな状態でも可愛いぞ?」
なのに
「はぅっ」
またしても『不整脈!?』と思ってしまった羽理だった。