購入した食材を冷蔵庫へ入れに帰りたい、と
ただ単に駐車場までの道すがら、「羽理、ここから俺の家まで迷わず行けそうか?」と
だが、実は今まで何だかんだと愛車のハンドルを
何なら方向音痴の自分のためにこそナビを付けているわけで……羽理がいくらダメダメでもナビに行き先さえ設定すれば問題ない。
ビタミンカラーが可愛い愛車コッペンちゃんのことを羽理は物凄く気に入っていたし、人に運転席を譲るなんて考えられなかったはずだ。
なのに、
案外すんなりハンドルを明け渡してしまえた自分に、羽理自身とても戸惑っていたりする。
(多分、
羽理自身その事象をうまく説明できなかったから、仕方なくそう結論付けたのだけれど。
恐らくはどんなに相手の圧が強くても、本当に嫌なら自分が絶対にへこたれるタイプではないはずだと言うことに、羽理は薄っすら気付いていて気付かないふりをした。
考えても分からないことはスルーするに限る。
羽理は今までだって――仕事ではともかくとして――プライベートではそうしてきたのだ。
今回だってそうしようと思っただけのことだった。
***
「お前の着替えも今日着ちまって替えがねぇし、化粧品買いそろえたらついでにお前の部屋へ寄って着替え、調達し直すだろ?」
そそくさと冷蔵庫へモノを詰め込みながら
(……ん? ちょっと待って? ひょっとして私、自宅へ戻った後、もう一度ここへ来る算段になってますかね?)
答えた後でそう思い至った羽理だったけれど……
「あー、そうだ。今朝のお前の失敗を踏まえて、お互いに仕事へ着て行けそうな服と、ラフな部屋着の両方を置くようにしとこうか」
言って、
「これ、一式お前ん
とか当然のように言ってくるから、思わず受け取りつつも、羽理は(どこに保管すればいいですかね!?)と思わずにはいられない。
どうやら
以前
何せ、
(自分の服と一緒に、このお高そうな部長のスーツを並べ置く?)
小さなクローゼットの中で寄り添う、お気に入りのワンピースと
(何か同棲してるみカップルみたいで恥ずかしいではないですかっ)
羽理が
というか……よく考えてみたら自分には恋のときめき的なものがイマイチよく分からないことに、今更のように気が付いた羽理だ。
以前、
羽理の恋愛小説はみんな何かで読んだり見たり聞いたりしたものの受け売りなのだから。
実体験に乏しい妄想小説である以上、リアリティなんて出せるわけがない。
でも――。
そこでちらりと愛犬キュウリを、目を細めて撫でさする
「あ、あのっ、
「……
呼び掛けると同時、足元のキュウリを撫でていた
その視線と自分のものがかち合った途端、羽理はまたしても心臓がトクン!と跳ねて、「うっ」と胸を押さえた。
(もぉ、怖いお顔するからまた心臓が痛くなっちゃったじゃないですかっ。不整脈で倒れたら治療費は部長に請求しちゃいますからね!?)
胸元をギュッとしながら
何だか自分が彼女の飼い主様に対して良からぬ気持ちを抱いているような気になって、ソワソワと落ち着かなくなった羽理だ。
(だっ、大丈夫だよ? キュウリちゃん。私、貴方の飼い主さんに害をなす気は微塵もないからっ)
そんな言い訳をしつつも心の中――。
(けど……今日の私、胸が痛くなり過ぎじゃない? 一度心電図をとり直して頂いた方がいいよね? もちろん原因は
なんて具合に、羽理は病院行きを決意した。
その上で、羽理は先程の続きの言葉を言わずにはいられない。
「あ、あの、それだと何だかお泊り前提みたいになってると思うんですけど……」
「ん? もちろんそのつもりだが?」
キョトンとした顔をした
そ、それは確かにその通りなんですがっ!と思いつつも反論したくてたまらない
「
別室へ……が出来ないから、一緒の部屋に寝るしかなくなるではないですか。
(それは困りますっ!)
そう思って。
「ひょっとして
「は? 何だいきなりっ」
キュウリを構うのをやめて慌てたように立ち上った
羽理は無意識に先程手渡されたばかりのスーツを抱く腕にギュウッと力を込めた。
(だってもしそうだとしたら……すっごくすっごく
プレイボーイに手玉に取られるのは
すぐさまそのモヤモヤの正体を、
(
それに実際、隙ならば
とにかく羽理にとって性行為は妊娠と隣り合わせの行動で……結婚する気もないのにしちゃうのには、どうしても抵抗がある。
それで過去、唯一付き合ったことのある彼氏に見切りをつけられたのを踏まえ、就職したのを機に心を入れ替えたつもりだった。
相手もある程度稼ぎのある男性ならばきっと何とかなるはずだし、もう少しゆるっと行こう……と。
でも、もし羽理が相手に
それは嫌だと突っぱねるのは大前提として、では自分が実母のように一人で子供を育てていけるのか?と考えたら、泣きたいくらい胸がキューッと苦しくなった。