自分が幼いころ、父親のいる
いざ
(
そんなことを思いながらも、
見かねた
「ひゃっ!」
その瞬間、期せずして
またしても心臓が大きく飛び跳ねてしまった羽理は、とうとう話の流れ度外視で「わ、私っ、心臓の病気かも知れません!」と訴えていた。
***
突然
二人の足元でことの成り行きを見守っていたキュウリが、突然降ってきた
いつもならば大切な愛犬が自分の
「羽理っ、お前心臓の病気かもって……。何か自覚症状が出てるのかっ!?」
両手で掴んだ羽理の肩が余りにも
「――ああああ、あのっ、お、お願いですから手っ、放してくださいぃぃぃ。ぶちょ、からそんなことされたら……私、ますます心臓がバクバクして死んでしまいます……」
ギュウッと胸の辺りを押さえて、羽理が眉根を寄せて
「すまん! 俺、お前が心配で思わずっ! ……羽理、大丈夫か!?」
羽理の手の下で押しつぶされた彼女の胸の膨らみを見て、
相手が女性じゃなかったら。すぐさま自分もそこへ耳を押し当てて、彼女の心臓の様子をうかがうことだって出来るのに!
羽理に何かあるかも知れないと思うと、心配する余り
それで無意識――。
羽理と同様胸に手を当てて深呼吸をしつつ心を落ち着けようとしたら、羽理に心配そうな顔で見上げられた。
「……もしかして……
自身の胸の膨らみを掴んだまま。
羽理のもう一方の小さな手が、ワイシャツの胸元を押さえた
「お、俺のは……単なる生理現象だ。……お、お前がその手を放してくれたら治る……!」
言って、その言葉に何となく既視感を覚えた
(ちょっと待て。異性に触れられるのが引き金で起こる心臓のバクバクって……)
「なぁ羽理。もしかしてお前の心臓……」
自分の胸から手を放した
「や、ちょっ、ダメっ……! そんなのされたら……私、私……!」
羽理が身体を固くして身じろぐのを、彼女の後頭部をグッと押さえるようにして自分の胸に押し当てて。
「もしかして……お前の
***
いきなり
それだけでも一杯一杯なのに、
トクトクと小動物さながらの早いビートを刻む
「
羽理としては真剣に異議申し立てをしたというのに。
その言葉を聞いた
羽理は頭に載せられた
「バカとかっ! ……いくら何でも失礼ですっ!」
「俺のことをちっこいネズミに例えるお前の方がよっぽど失礼だ!」
ムスッとした様子の
「はぅっ」
慌てて胸を押さえながらも、羽理は(暴言を吐かれてもハンサムに見えちゃうとか! 部長、ずるくないですか!?)と心の中で懸命に反論する。
「もう一度だけ聞いてやる。――お前が苦しくなるのはどういう状況の時だ!?」
そんな
「なぁ、羽理。そこまで分かってるくせにその先が分かんねぇとか……。お前本気で言ってるのか?」
羽理の返答を聞くなり、はぁーと溜め息混じりにトーンダウンしたバリトンボイスが降って来て……。
頭を
「あのっ、申し訳ない、の、ですが……今すぐ救急車を呼んでください……。お願いします……」
張り裂けそうな胸を押さえながら懸命に訴えたというのに。
「残念だったな、羽理。お前のそれはお医者様でも草津の湯でも治らんやつだ」
などと、
羽理は
心の中、(私、不治の病にかかってしまったみたいです、お母さんっ。先立つ不幸をお許し下さいっ)と、遠方に住む母親を思って我が身を
なのに――。
「だがな、羽理。医者でも名湯でも治せねぇお前のそれも俺のこれも……。二人で一緒にいれば、相乗効果で自然と治る」
(そんな共鳴反応を起こすような心臓病なんて聞いたことありません! 訳が分からなさ過ぎるんですけどっ)
そう思いつつも、またバカ呼ばわりされるのは嫌なので、羽理なりに一生懸命考えて答えをひねり出した。
「……つまりは……ショック療法しかないってことですか?」
痛みの原因とともに過ごす事がお互いのためになるだなんて……そうとしか思えない。
それで心臓が止まってしまったら元も子もない気がするのだけれど……。
「ああ、それしか方法がねぇからな」
と、いとも簡単に断言されてしまっては、うなずくしかないではないか。
「ってわけで、俺と一緒に過ごすだろ?」
どこか
(――そういえば部長、私のこと好きだって酔狂なこと、言ってくださってましたもんね。こんな状況でも、〝好き〟と言う気持ちだけであんなにも幸せそうなお顔が出来るんだ)
そう思ったら、少しだけそんな