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第32話


 蒸気を上げる身体を冷ます為、冷たく心地いい空気を肺に流し込む。


「ごめんやすぅ……東条はん!?」


 丁度夕飯を一緒に食べようと訪れた紗命が、瀕死のスライムの如くグデグデになった彼に驚き、駆け寄る。


「どないしたん?凄い汗やで?具合悪いの?」


「黄戸菊?あぁ……悪い、気付かなかった。特訓してただけだから心配すんな。……ご飯持ってきてくれたのか?」


「う、うん」


「ははっ、ありがとな。これじゃぁ完全に引き籠りだな」


 怠い身体を叱咤し、「よっこらせっ」と立ち上がる。


「ぃつつ。悪い、先シャワー浴びてくるから少し待っててくれ」


「え、あ、うん。分かった」


 痛む頭を抑えヨタヨタ歩く彼を、ほけー、と見つめる。


「あ、ちょい――っ……」


 彼の姿に気付き言及しようとするが、そこで背中に刻まれた大きな裂傷が目に入った。


 肩口には無数の歯形もあり、正に修羅場を潜り抜けてきた身体だ。


 紗命はかける言葉も忘れ、熱っぽい視線を只向けるだけだった。


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