――「バカっ、どんだけ心配したと思ってんの!」
「……すまない」
上半身裸で汗だくの男二人が、女性二人の前で正座している。
夢中になりすぎた東条と葵獅は、連絡を入れるのも忘れ陽が落ちるまで鍛錬に耽っていた。
残留組は気が気ではなく、人員を絞り、彼等の救出作戦が持ち上がったほどである。
その中に「良い汗を流した」、と笑顔で帰って来たものだから、凜のこの剣幕も納得できるというもの。
「……あんたもよ?桐将はん」
「はい。ごめんなさい」
葵獅の影に隠れていた彼も、少女の怒気によって炙り出される。
「……帰りを待ってる人がおること、忘れんといて」
「……それは、どういう」
「……蕾はん達がお礼言いたいって心配してはったって意味や」
「あぁ、……」
――解放された二人は、何はともあれ道中沢山の人に礼を言われた。
東条自身驚く人の集まり様だったが、彼はそれだけの事を行ったのである。
加えて昨夜の微笑ましい光景も、彼の取っつき難さを緩和していたりするのだが、心汚い東条がそのことに気付くことはない。
「本当に有難うございます」
「いえいえ、必要な物があったら言ってください。無理しない程度に取ってくるんで」
中くらいのバックを抱えた蕾が、頭を下げて礼を言う。
「お兄ちゃん、ありがとうございます」
「良いってことよ。沢山食って沢山寝ろよ?バイバイ」
「バイバーイ」
手を振り、その場を後にした。
「……ズボン、おめでとさん」
「おう、これでようやく人らしい生活が出来るってもんだ」
「ふふっ、てるてる坊主と大差なかったもんなぁ?」
「違ぇねぇ」
二人して東条が人になった喜びを讃える。
軽口を言い合う彼等の間には、探る様な、付かず離れずの空気が流れていく。
「……黄戸菊さ、さっき俺のこと名前で呼んだよな?」
「……うちのことも紗命って呼んどぉくれやす。……皆そう呼んではるさかい」
「……分かった」
「……」
「なんか恥ずいな」
「あんただけや」
「そりゃ悲しい」
笑い合い、消えゆく白い吐息は、寒さなど気にならないほどに温かかった。