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第41話



 ――「バカっ、どんだけ心配したと思ってんの!」


「……すまない」


 上半身裸で汗だくの男二人が、女性二人の前で正座している。


 夢中になりすぎた東条と葵獅は、連絡を入れるのも忘れ陽が落ちるまで鍛錬に耽っていた。


 残留組は気が気ではなく、人員を絞り、彼等の救出作戦が持ち上がったほどである。

 その中に「良い汗を流した」、と笑顔で帰って来たものだから、凜のこの剣幕も納得できるというもの。


「……あんたもよ?桐将はん」


「はい。ごめんなさい」


 葵獅の影に隠れていた彼も、少女の怒気によって炙り出される。


「……帰りを待ってる人がおること、忘れんといて」


「……それは、どういう」


「……蕾はん達がお礼言いたいって心配してはったって意味や」


「あぁ、……」


 ――解放された二人は、何はともあれ道中沢山の人に礼を言われた。


 東条自身驚く人の集まり様だったが、彼はそれだけの事を行ったのである。

 加えて昨夜の微笑ましい光景も、彼の取っつき難さを緩和していたりするのだが、心汚い東条がそのことに気付くことはない。


「本当に有難うございます」


「いえいえ、必要な物があったら言ってください。無理しない程度に取ってくるんで」


 中くらいのバックを抱えた蕾が、頭を下げて礼を言う。


「お兄ちゃん、ありがとうございます」


「良いってことよ。沢山食って沢山寝ろよ?バイバイ」


「バイバーイ」


 手を振り、その場を後にした。


「……ズボン、おめでとさん」


「おう、これでようやく人らしい生活が出来るってもんだ」


「ふふっ、てるてる坊主と大差なかったもんなぁ?」


「違ぇねぇ」


 二人して東条が人になった喜びを讃える。


 軽口を言い合う彼等の間には、探る様な、付かず離れずの空気が流れていく。


「……黄戸菊さ、さっき俺のこと名前で呼んだよな?」


「……うちのことも紗命って呼んどぉくれやす。……皆そう呼んではるさかい」


「……分かった」


「……」


「なんか恥ずいな」


「あんただけや」


「そりゃ悲しい」


 笑い合い、消えゆく白い吐息は、寒さなど気にならないほどに温かかった。



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