外が一段と騒がしくなり、何か起きたのか、と重い腰を上げる。
「佐藤さーん、何か「――っ東条さん‼紗命さんが連れ去られました‼上です‼」――ッ」
地面を蹴り抜き、エスカレーターに直行。駆け上がる。
首を振り、見つけた。
窓際、水球の中、必死に口を閉じて我慢している少女の姿がある。
その横に、赤い肌のゴブリン。
「クソがッ‼」
不味すぎる状況に、今は考える時間ではない。全力で敵へ突っ込んだ。
「ギィアアアァッッ‼」
苦い顔をする赤肌は雄叫びを上げ、待機している手下に突撃命令を下す。
赤肌は女が死ぬまで待つつもりだったが、想定外の東条の姿に作戦を繰り上げた。
§
呼応して、バラけた総勢二十匹の増援が、階段やエスカレーターを使い屋上に這い出してきた。
佐藤その他は更なる想定外に目を剥き、行く手を遮られる。
東条は意図的に孤立させられたのだ。
§
――「チィッ!?」
突っ込んだ途端、真下から炎が噴き出す。
後ろに飛びそれを躱し、炎を突き抜け飛んでくる三発の水の銃弾を漆黒で受け止めた。
「……マジかよ」
初めて見る、二属性使い。
対策を講じようにも、止まっていると真下から炎が噴き出す。動き続けながら水の玉を捌かなければならない。
身体強化の酷使で、いよいよ激しさを増してきた頭痛に顔を顰める。
魔力の打ち止めも近い。
焦る気持ちが早鐘を打つ。
(――ッ近づけねぇっ)
こうしている間にもタイムリミットが迫っている。二分も経てば彼女がどうなってしまうか分からない。
「――っ」
漆黒を敵の前に出そうとするも、何故か射程距離が分かっているかのように、炎と水弾を放って一定の距離を保ってくる。
事実赤肌は、筋肉と彼等の戦闘も見ていた。
漆黒の現在の可動域は半径四、五m。
赤肌はそれも理解し立ち回っているのだ。
そして遂に、
「ッ、!?紗命ッ‼」
囚われた少女の限界が来てしまった。
ボコボコと泡の息を吐き出し、苦しそう身をよじる。
碌に視界も定まらない中、彼女は助けを求め、目を動かす。
最後、
悲痛に染まった瞳は、一人のシルエットを映し、
……力なく暗転した。
苦しい目だった、悲しい目だった、縋すがる目だった。
……絶対に、助けなければならない、
「待ってろ」
四肢を床につけ、獣の様な姿勢になる。
漆黒を両足に纏わせ、全身の筋肉を脚に集中させる、
――溜めは一瞬、
ダアァンッッッッ‼
床を踏み抜き爆砕、東条は一直線に敵へ弾き飛ぶ。
赤肌は水の銃弾で迎え撃つが、漆黒を展開して受け止めた。
瞬間、
赤肌がニヤリとワラった。
――東条の左を、特大の炎の柱が襲った。