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第48話



 外が一段と騒がしくなり、何か起きたのか、と重い腰を上げる。


「佐藤さーん、何か「――っ東条さん‼紗命さんが連れ去られました‼上です‼」――ッ」


 地面を蹴り抜き、エスカレーターに直行。駆け上がる。


 首を振り、見つけた。


 窓際、水球の中、必死に口を閉じて我慢している少女の姿がある。


 その横に、赤い肌のゴブリン。


「クソがッ‼」


 不味すぎる状況に、今は考える時間ではない。全力で敵へ突っ込んだ。


「ギィアアアァッッ‼」


 苦い顔をする赤肌は雄叫びを上げ、待機している手下に突撃命令を下す。


 赤肌は女が死ぬまで待つつもりだったが、想定外の東条の姿に作戦を繰り上げた。



 §



 呼応して、バラけた総勢二十匹の増援が、階段やエスカレーターを使い屋上に這い出してきた。

 佐藤その他は更なる想定外に目を剥き、行く手を遮られる。


 東条は意図的に孤立させられたのだ。



 §




 ――「チィッ!?」


 突っ込んだ途端、真下から炎が噴き出す。

 後ろに飛びそれを躱し、炎を突き抜け飛んでくる三発の水の銃弾を漆黒で受け止めた。


「……マジかよ」


 初めて見る、二属性使い。

 対策を講じようにも、止まっていると真下から炎が噴き出す。動き続けながら水の玉を捌かなければならない。


 身体強化の酷使で、いよいよ激しさを増してきた頭痛に顔を顰める。

 魔力の打ち止めも近い。


 焦る気持ちが早鐘を打つ。


 (――ッ近づけねぇっ)


 こうしている間にもタイムリミットが迫っている。二分も経てば彼女がどうなってしまうか分からない。


「――っ」


 漆黒を敵の前に出そうとするも、何故か射程距離が分かっているかのように、炎と水弾を放って一定の距離を保ってくる。



 事実赤肌は、筋肉と彼等の戦闘も見ていた。

 漆黒の現在の可動域は半径四、五m。

 赤肌はそれも理解し立ち回っているのだ。


 そして遂に、


「ッ、!?紗命ッ‼」


 囚われた少女の限界が来てしまった。


 ボコボコと泡の息を吐き出し、苦しそう身をよじる。




 碌に視界も定まらない中、彼女は助けを求め、目を動かす。


 最後、

 悲痛に染まった瞳は、一人のシルエットを映し、


 ……力なく暗転した。




 苦しい目だった、悲しい目だった、縋すがる目だった。



 ……絶対に、助けなければならない、



「待ってろ」


 四肢を床につけ、獣の様な姿勢になる。


 漆黒を両足に纏わせ、全身の筋肉を脚に集中させる、


 ――溜めは一瞬、



 ダアァンッッッッ‼



 床を踏み抜き爆砕、東条は一直線に敵へ弾き飛ぶ。


 赤肌は水の銃弾で迎え撃つが、漆黒を展開して受け止めた。


 瞬間、



 赤肌がニヤリとワラった。





 ――東条の左を、特大の炎の柱が襲った。






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