――「おはようさん」
「ん、おはよう」
紗命の挨拶で起きる東条は、欠伸をしながら戦闘服に着替える。
(自分の為に、優しいなぁ)などと思っている東条だが、実のところそんな善意は欠片もない。
東条の起きる時間を完全に把握している紗命は、彼の寝惚けた顔を見る為だけにこうして毎日通っているのだ。
「はいどーぞ」
「あばばばば」
地面に飛び下りた東条は、強制的に洗顔されながら歩いていく。
「ぷはっ、水魔法マジ便利よな」
「ふふっ、できた妻やろ?」
「母性に擽られるのは間違いない」
いつも通り仲睦まじく林を抜けてくる二人に、しかし今日はいつもと違う視線が三つ向けられていた。
席に着き朝食を手にしたところで、東条は三人が近づいてくるのに気付く。
若葉の弟子筆頭の三人だ。
知らない顔というわけではないが、話したこともない上に、何かと殺意を感じるので距離を取っていた。
「おはようございます黄戸菊さん、少々お時間宜しいでしょうか?」
「はい、おはようさん。どないしたん?」
やけに丁寧な口調で話しかける因幡に、紗命は笑顔で応対する。
そこで、我関せずを貫いていた東条に、これでもかとガンが飛ばされた。
「彼に話がありまして」
「……え、俺?」
殺意剥き出しの三つの目にパチクリする。
「そうっす、あんたに決闘を申し込むっす」
「断るっす」
瞬きも許さぬ一瞬の攻防、一考の余地すらない問答無用の返答。
今度は三人がパチクリした。
「……なっ」
「テメェッ」
「落ち着け、黄戸菊さんの御前だぞ」
勝手にワイワイと言い合う彼等を、東条は不審な目で見る。
いきなり来て決闘などとぬかされれば、そりゃ断るだろう。
「そもそも何で決闘よ?」
「テメェがそれを言うのかッ!」
「だから落ち着けっ!」
食って掛かるヤンキーを、落ち着いた風体のヤンキーが地面に抑える。もう何が何だかさっぱりだ。
「……まぁいいっす。断られるのは予想してたし」
因幡の一声で残る二人も立ち上がった。
「俺は因幡 恭介っす」
「……
「
「あ、東条 桐将です」
名乗り出したので一応流れに乗っておく。
「では黄戸菊さん、お騒がせしました」
「「お騒がせしました」」
「ええよ~」
一礼し去って行く彼等を、東条は唖然と見送った。