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第69話



「だいぶ離れたな……」


 九階から落ち、八階を駆け抜け、レストラン街の途中でまた落ちた。


 自分は今七階にいることになる。

 とりあえず、と漆黒に乗り頭上の穴を目指す。


 漆黒は消してから出すのはコンマの内に収まるが、縦横移動になると途端にカタツムリ並みの速度になる。乗ったまま高速で移動できないのがネックだ。



 八階に降り、元来た道を進む。






 ――オークの死体を避け、進む。






 ――やけに静かな帰り道。








 ……ふ、と足を止め、彼はある一点を注視した。





 そこは、八階から屋上への直通路。





 一番最初の避難時以外、一度も使われていない通路。





 メンバー間で、モンスターに悟られぬよう、出入口は一つに絞ろうと決めた。

 だからホブ達もここに気付かず、人間の出入りが盛んだった九階の経路を使ったのだ。







 ――彼の目の前には、圧倒的な力で捻じ切られた防火扉が静かに項垂れている。







 心臓が早鐘を打ち始め、言い知れない不安が湧き上がってくる。




 ありえない。


 いつだ?


 まだ最初に落ちてから五分も経ってないぞ。


 行きはどうだった?


 見てなかった。


「――ふぅ、ふぅ、……落ち着け……」



 扉を潜り、上り階段に足を掛ける。



 大丈夫だ。


 葵さんも、佐藤さんも、紗命も、源爺も、因幡も、刀祢も、海も、皆強い。


 もし知らないモンスターが攻めてきてたとしても、彼等なら問題ないはずだ。




 ――自分に言い聞かせるにつれ、反対に上る速さは増していく。




 見ていてくれと彼等は言った。


 任せてくれと彼等は言った。


 ならば信じるだけだろう。


 仲間として、彼等を信じるだけだろう!





 ――潰れたドアを押し開け、へし折れたバリケード用の木を飛び越えた。

















 クチャ、くちゃ、クチャクチャ、バリっ、――
















「…………」




 ――視界を埋めるのは、本来は違う色だったはずの、赤いペンキをぶちまけた様な床。


 地面は罅割れ、テントは吹き飛び、木々も抉り倒されている。



 凡そ居住地と呼べる風景は、跡形もなく消え去っていた。



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