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2巻一章〜国と魔獣

第76話

 ――数十分後、近場にいた国を牽引する者達が、招集に応じ続々と皇居へ到着する。


 まだ来れない者はテレビ通話での参加とし、緊急の会議が開かれた。


 無駄に話し合っている時間は無い。今確保しなければいけないのは、民間人の安全ただ一つ。


 しかし現状は、既に敵に攻め入られ虐殺を許している状況。


 民が訴える嘆きが、痛みが、彼らの胸を抉る。

 絶望的なまでの戦況差に、



 しかし卓を囲む顔ぶれに、一切の怯え無し。



 総理自らが先頭に立ち、的確に指示を出していく。

 誰もそれに意見せず、各セクションに伝達していく。


 この命令系統の早さを実現させているのは、偏に総理への絶対的信頼、常軌を逸したカリスマ性が成せる業だ。


 過去最高と謳われる圧倒的指導者を前に、現在の日本はある種の独裁国家となっている。

 それで国が成り立っているのも、王を補佐する大臣に恵まれたから。


 ここはもう、日本であって、日本ではない。


 そんな国が保有するが、普通であるはずがない。




 §




 ――モンスターは知らなかった。


 今自分達が手を出している場所に、何が潜んでいるのかを。


 モンスターは知らなかった。


 今自分達がいる場所が、どれ程危険な場所かということを。


 モンスターは知らなかった。



 太陽を背負う戦闘集団の、底知れない恐ろしさを。




 §




 ――会議とは名ばかりの、司令本部と化した一室から、重要機関へ指令が送られる。


 国家の主要人物が集まるこの場所を本陣とし、到着しつつある日本最強の戦闘部隊で防衛を敷く。


 それ以外、日本全国の部隊は、駐屯地防衛隊を三分の一残し、避難場所となっている学校や病院へ駆けつけるよう指示が出た。


 そこから近場の避難場所を繋げていくように、自陣を広げる戦術を作戦とする。


 警視庁下の部隊は、主に人命の救助を優先し駆け回ってもらう。



 一先ず落ち着いた本部は、各所からの報告を待つ形となった。




 ――「……ふぅ」


 我道が総勢千を超える部隊を窓から見ていると、慌ただしい部屋にドアをノックする音が響いた。


「失礼いたしますっ。第一空挺団所属、亜門一等陸佐、隷下、Αアルファ隊からΔデルタ隊隊長でありますっ」


「入れ」


 岩国が入室の許可を出す。


「失礼いたしますっ」


 挨拶と共に、一糸乱れぬ動きで計五名の男女が入室し、亜門の後ろに四人が整列した。


「第一空挺団所属、並びに皇居守護部隊総隊長、亜門 誠一郎あもん せいいちろう一等陸佐でありますっ」


 敬礼する彼等の気迫に、部屋中の空気が引き締まる。



 東西南北に配備された人員は、それぞれ四五〇人程度。加えて隊員は全て精鋭中の精鋭。

 過剰なまでの戦力が今、一か所に集結している。


 しかし、それ程までにここは守り切らなければならない場所だということ。


「状況は」


「はっ、既に全方位、皇居内にて第一防衛線を敷き終わり、第二防衛戦の設置に取り掛かっています。

 同時に皇居内にて、怪我人の手当てを行っています。幸い命に係わる重傷者はいないとのことです」


 なるほど流石に仕事が早い、と後ろで見ていた我道が感心する。


「分かった。引き続き第二、第三の防衛線の構築を急いでくれ」


「はっ」


「それと、モンスター共について何か気付いたことはあるか?」


 岩国は外で見た悍ましい化物どもを想起する。


「はっ。私も彼等から報告は受けましたが、今のところ我々は殆ど敵との交戦をしていません。

 敵の事なら彼等に直接聞くのが一番かと」


 亜門は未だに沈黙を守る後ろの四人をちらりと見る。


「我々がこれ程早く防衛線を構築できているのも、彼らのおかげです」


 亜門隷下の大半が任されたいるのは、陣の構築と防衛。


 対して彼等、特戦群が任されているのは、危険未知数の外の偵察である。


「それもそうだな。して、どうだ?」


 黒い迷彩に身体の大半を隠した四人が、ぬるりと動いた。


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