「まさ、まさっ」
先の発光でもピクリともしなかった東条を、揺すって起こそうとする。
しかし当然、運動エネルギーは全て吸収される。
故に全く動かない。
「まさっ、起きてっ、……むー」
早く自慢したいというのに、この男は……。
殴る蹴るの暴行を一旦やめ、考える。
そしてある策を思いついた彼女は、リモコンを拾いテレビを付け、音量をマックスにした。
とりあえずリモコンは顔面にぶん投げておく。
「…………ぁあ?うるさ」
ようやく目を覚ました彼は、のそのそと起き上がり、
……逆光を浴び仁王立ちする裸の少女を、その視界に捉えた。
「よっ」
「…………え、誰?」
当然の反応。
当然の疑問。
情報量の多さに彼の頭が高速で回転し、そして一つの結論を導く。
『事案』
(おい嘘だろ?俺酔ってこんな子に手ぇ出したのか⁉そもそも俺のタイプは年上と紗命以外に……いや待て、考えれば紗命も童顔の節が……。いいやまだだ、夢、そう夢!)
東条は顔をはだけさせ、一縷の望みに賭け衝撃波を放った。
「ブぼぇッ」
……当然、ぶっ飛ぶ。
ゴミの中をスライディングしていく彼に、呆れかえる彼女であった。
「……」
「……殺せ」
本当に殺してやろうか、と一瞬思うが、彼女は最後のチャンスを与えることにした。
「よっ!」
腕を前に出し、渾身の挨拶。
「……」
訳の分からない行動に再度固まる東条だが、彼女の全身を見て気付く。
髪も、顔も、睫毛も、身体も、たった一つ、目だけを除き、異常なまでに白い。
白すぎる。
そして今の挨拶……。
「……まさかお前、白蛇か?」
「ん。正解」
サムズアップする幼女に、今度こそ東条は目を見開いた。
――「とりあえず服着とけ」
「ん」
彼女には大きすぎるコートを投げ渡し、ソファに座らせる。
自分は地べたに胡坐を掻き、その変貌ぶりをもう一度眺めた。
「で、何がどうなってる?」
「変身した」
「どうやって?」
「身体創り変えた」
「……それがお前の能力か?」
「違う」
「他のモンスターもそれできんの?」
「分かんない。けど、私とあれは違うから」
「何が?」
「んー、格?」
いまいち要領の得ない回答に頭を掻く。
正直、白蛇の姿形が変わろうがどうでもいいのだが……。
一応、一番重要な、今だから聞けるようになったことを聞いておく。
「お前、俺を殺す気ある?」
「ない。なんで?」
心底不思議そうな顔をする幼女。
思えば今更な質問、完全に毒気が抜かれてしまった。
「そうかい、んじゃ別にいいや」
さっさと寝る準備に入る東条を、彼女がジト目で止める。
「ん!」
「何よ?」
「変身、褒めて」
「あぁ……。すげぇよ。驚きすぎてぶっ飛んじまった」
「ん。おけ」
「おけおけ」
お互いにサムズアップし、東条は就寝に付く。
いつもと変わらぬ夜が、再び室内を満たす。
ありえない程重大な変化は、ありえない程普通に幕を閉じた。