――「……わりぃ、もう大丈夫だ」
「ん」
頭に回されていた腕が解かれ、東条は自力で立ち上がる。
どうにもこっ恥ずかしくて、下から覗き込む彼女から眼を逸らした。
「その、なんだ。……ありがとうな」
「ん」
差し出される手。
小さく頼りない手が、今だけは、とても大きく見えた。
「――っ……」
握り返すとグイ、と引かれ、一気に扉の向こうへ連れ出される。
振り返れば、デパートのドアは後ろにある。
……こんなにも簡単だったのか。前に進むというのは。
自分を照らす太陽に目を窄め、漆黒を出そうとして、……やめた。
胸いっぱいに冷たい空気を吸い込み、埃塗れの肺を一新する。
……彼等はいなくなった。
でも、自分の中からいなくなったわけじゃない。
進んでいけばいい。
これからも。
彼等と共に。
重い荷を背負い直した東条は、きっかけとなった彼女の方を向く。
改めて礼を言わねば。
「ありがブふッ……」
振り向いた直後、顔面に固い雪玉が直撃した。
「バーン」
「……ほぉ?」
綺麗な投球フォームのまま、彼女が言ってのける。
……せっかく感謝してやろうと思っていたのに。……やめだ。
東条は腕部分を顕現、肥大化させ、筒状に構成。
無数に飛んで来る雪玉を躱しながら、その中に雪を詰めていく。
一瞬で肉薄し、砲口を突き付けた。
「やば」
「ふっとべや」
ボンッ、と砲声が鳴り、小さな身体が容赦なく宙を舞う。
「――うげっ」
彼女は木に激突し、落ちてきた雪に埋まった。
「……死んだか?」
大砲を肩に担ぎ、白い小山を見つめる。すると、
「怒った」
にょきッ、と頭が生えた。
「ハハハ、来いや」
飛び出す彼女を前に、漆黒を消し、今度は正々堂々と腕力だけで迎え撃った。
――「――はぁっ、はぁっ、……やるじゃねぇか」
「――はぁっ、はぁっ、……まさも」
お互いを湛え拳をぶつける。
手当たり次第に雪を投げ続け、禿げたコンクリートの上に寝っ転がる二人。
東条はジャンパーを脱ぎ、汗を拭う。
久しぶりに、こんなに身体を動かした。
下手したらホブよりも手強かったかもしれない。
「はぁ、はぁ、……決めた」
「何が?」
唐突に呟く彼女を不思議に思い、目を向ける。
「名前」
「……お前の?何で今よ」
「思いついた」
彼女は空に手を翳し、降りしきる雪を一つ、握りしめた。
「ノエル」
聖なる夜を意味する言葉。
大切な
自分にはぴったりの名前だ。
「……いいじゃん」
「ん」
東条は立ち上がり、彼女を、ノエルを引っ張り上げる。
「んじゃ帰るか。シャワー浴びてぇ」
「ん」
汗を流す為歩き出すと、ふ、とノエルが止まった。
「スマホ」
「あぁ……忘れてた」
雪合戦に夢中になりすぎて、本当の目的を忘れていた二人であった。