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第104話


「グルアァ」「ゲッゲッ」「ゲアッ」


石器を打ち鳴らし威嚇するその姿は、自分が食物連鎖の頂点であるとまるで疑っていない。


ノエルは一歩下がり、四体の化物がしっかり映るよう、画角を調節した。



「懐かしいな」


一番最初に殺りあった種族であり、強くなった後も東条を死に追いやった難敵。


しかし、そんな奴等に近づく彼の歩調には、警戒など微塵も感じられない。


「グルアッ‼」


「大将が先に出てきちゃ、いかんでしょ」


突進から振り抜かれた鈍器をゆらりと躱し、追従する二体に向けて地を蹴る。


「ギぶっ⁉」「ガっ――」


武器を構える暇すらない。

一体は顔面を蹴り抜かれコンクリの壁に突き刺さり、一体は頭部を掴まれ道路に叩きつけられた。


……両者、ピクリとも動かない。


「グガァッ‼」


無視されたことに切れたホブが鈍器を振り回すも、東条はステップだけで躱していく。


あの時死ぬ気で応じていた攻撃はどんなものか、と試してみたものの、今となっては有象無象と何も変わらない。


ホブが大きく振り被るのを見て、腕を曲げガードの態勢に入った。


「グルゥウッ‼」


ゴンッ、と鈍い音が鳴り、東条の身体が少しだけスライドする。


確かな手応えにホブが鼻を鳴らす。が、


「……痛くもない、か」


身体強化の上からでは、最早ホブとて彼に傷を負わせるのは不可能となっていた。


「――っグガァッ、っガ⁉」


咄嗟に追撃を入れようと動く相手の懐に一瞬で潜り込み、肘関節を殴り折る。


取り落とした鈍器を空中で掴み、迫る拳を躱しざま、身体を捻り、


「オルァッ‼」

「ボグぉエッ――」


全力でバットを振り抜いた。


直撃したホブの胸部は大きく陥没し、衝撃に内臓が破裂、目は飛び出て身体がぶっ飛んでいく。


轟音を立てガラスを割り、壁にぶつかり、ようやく止まった。


「……ま、ちゃんと強くなってるってことで」


東条は血濡れた鈍器を放り投げ、改めて自分の成長を自覚した。




「おつかれ」


「おう。ちゃんと撮れたか?」


「もち」


ホクホク顔のノエルに、見てる此方も何だか嬉しくなる。


「何か戦い方の要望あれば言えよ?出来る限り従ってやるから」


「ん。……でも、まさが怪我しないならそれでいい」


「……そうかい」


純粋な彼女の頭をワシャワシャと混ぜ、さっさと目的地へ歩き出す。



「まさ、ジャンパーに返り血ついてる」


「あ?マジじゃん!ショックだわ」


「いいアクセント」


「……そうか?ならいいか」


「ん」


トテトテとついてくる心地いい足音を聞きながら。



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