「グルアァ」「ゲッゲッ」「ゲアッ」
石器を打ち鳴らし威嚇するその姿は、自分が食物連鎖の頂点であるとまるで疑っていない。
ノエルは一歩下がり、四体の化物がしっかり映るよう、画角を調節した。
「懐かしいな」
一番最初に殺りあった種族であり、強くなった後も東条を死に追いやった難敵。
しかし、そんな奴等に近づく彼の歩調には、警戒など微塵も感じられない。
「グルアッ‼」
「大将が先に出てきちゃ、いかんでしょ」
突進から振り抜かれた鈍器をゆらりと躱し、追従する二体に向けて地を蹴る。
「ギぶっ⁉」「ガっ――」
武器を構える暇すらない。
一体は顔面を蹴り抜かれコンクリの壁に突き刺さり、一体は頭部を掴まれ道路に叩きつけられた。
……両者、ピクリとも動かない。
「グガァッ‼」
無視されたことに切れたホブが鈍器を振り回すも、東条はステップだけで躱していく。
あの時死ぬ気で応じていた攻撃はどんなものか、と試してみたものの、今となっては有象無象と何も変わらない。
ホブが大きく振り被るのを見て、腕を曲げガードの態勢に入った。
「グルゥウッ‼」
ゴンッ、と鈍い音が鳴り、東条の身体が少しだけスライドする。
確かな手応えにホブが鼻を鳴らす。が、
「……痛くもない、か」
身体強化の上からでは、最早ホブとて彼に傷を負わせるのは不可能となっていた。
「――っグガァッ、っガ⁉」
咄嗟に追撃を入れようと動く相手の懐に一瞬で潜り込み、肘関節を殴り折る。
取り落とした鈍器を空中で掴み、迫る拳を躱しざま、身体を捻り、
「オルァッ‼」
「ボグぉエッ――」
全力でバットを振り抜いた。
直撃したホブの胸部は大きく陥没し、衝撃に内臓が破裂、目は飛び出て身体がぶっ飛んでいく。
轟音を立てガラスを割り、壁にぶつかり、ようやく止まった。
「……ま、ちゃんと強くなってるってことで」
東条は血濡れた鈍器を放り投げ、改めて自分の成長を自覚した。
「おつかれ」
「おう。ちゃんと撮れたか?」
「もち」
ホクホク顔のノエルに、見てる此方も何だか嬉しくなる。
「何か戦い方の要望あれば言えよ?出来る限り従ってやるから」
「ん。……でも、まさが怪我しないならそれでいい」
「……そうかい」
純粋な彼女の頭をワシャワシャと混ぜ、さっさと目的地へ歩き出す。
「まさ、ジャンパーに返り血ついてる」
「あ?マジじゃん!ショックだわ」
「いいアクセント」
「……そうか?ならいいか」
「ん」
トテトテとついてくる心地いい足音を聞きながら。