控え室には、何人もの名前が書かれた貼り紙が貼られていた。
一番上に整った文字で「先月のクエスト達成ポイント獲得一覧」と書かれた貼り紙の前には人が集まっており、笑顔を浮かべる者もいれば顔を引き攣らせ、貼り紙から足早に去る者もいた。
用意された服を、今にも壊れそうな籠から取り出し、袖を通す。
所持金を、穴の空きそうなポケットに入れると、少女は貼り紙を見ることなく控え室を出た。
少女は決して大きな音を立てた訳ではない。
しかし、彼女がドアが閉める音は、控え室にざわつきを与える。
「あら、最下位の子、貼り紙見ずに出て行っちゃった」
「本当に? 全然気が付かなかったわ。魅力なさすぎて見えなかったかも」
最もポイントを獲得したアイドル嬢の発言に合わせ、少女を小馬鹿にする笑いが広がる。
「なんでアイドル嬢してんのかな? あんな愛想のない子が」
「元冒険者らしいよ?」
「えー? 更に意味わかんない。未練タラタラで冒険者にクエスト案内してるからポイント少ないんじゃない?」
「さっさと辞めちゃえばいいのにね」
「うっさ……」
控え室からギルドの受付まで繋がる通路は、ドアが薄いのか壁が薄いのか、控え室内の声が丸聞こえになる。
皆、その事を把握しておきながら、あの声量で話すのだ。
少女を追い詰め、小馬鹿にし、楽しむために。
その結果、少女がどうなっても構わない。
「私が、なんで冒険者辞めたのか知らないくせに」
少女が担当するカウンターが見えてくる。
「ギルドの受付嬢なんて、好きでやってる訳じゃないのに」
控え室から俯きなから歩いてきた少女は、カウンター内に足を踏み入れた瞬間顔を上げる。
これが、今の私に出来る仕事だから。
心の中の自分にそう言い聞かせ、カウンター外の見慣れた景色を眺める。
ハルウェル王国、冒険者ギルド。
今日も普段通り、変わらない日々が始まる。