買い物を終えて咲夜と悠はフラペチーノを求めにチェーン店のカフェの行列に並んだ。
「この後、どうする? ここで飲んじゃう?」
「悠、どこか行きたいところあるの?」
「ん? 咲夜に見せたいものあるからさ。うちに寄ってみない?
持ち帰りにしてもいい?」
悠は新しいおもちゃを買ってもらうんだというような小さな子供のように興奮していた。咲夜がうちに来てもらうことがものすごく嬉しそうだった。
「うん、いいよ。私、バニラフラペチーノにしようかな。あとチョコチップクッキーと。悠はどうする?」
「うんとね、キャラメルマキアートにするよ。それと、マカダミアナッツのクッキー」
「ここのクッキーってさ。すごく大きくて美味しいよね」
「そうそう。好きだな」
咲夜は、悠の“好き”というワードに変にどきっとした。少し低めの声で自分に言われてる気がした。本当に悠は女の子じゃなくて男の子なんじゃないかと思うことがたくさんある。心臓の高鳴りが止められなかった。
いつも目の保養になるカフェの店員がイケメンでも、そばにいる悠の方が
心地がいい気がしてくる。
「咲夜、先に進みなよ」
注文を終えた咲夜は悠のことを見過ぎてぼんやりしていた。
「あ、そうだった。ごめん」
注文口の前でじっと待つ。テキパキと作業するカフェ店員は確かに少しパーマをあてていてかっこいい。でも、かっこよぎて緊張する。その点、悠は、かっこいいし、リラックスできる。この違いはなんだろう。女子だからか。どんな緊張感だと自問自答しながら、 首をブンブン振る。
「お待たせいたしました。バニラフラペチーノのトールサイズの方」
「はい!」
咲夜は元気よく返事をして、受け取った。横で見ていた悠はクスッと笑う。その様子を見て、咲夜は照れてしまう。横にならんで、悠の家に向かった。
◇◇◇
シンプルな部屋に本棚があった。ここは閑静な住宅街にある家の悠の部屋。
棚の上には集めたのであろうガシャポンで購入したメロンクリームソーダの
喫茶店シリーズが並べられていた。
「悠、これ、どうしたの?」
部屋に着くなり、ベッドの横に置いていた本棚の上のメロンクリームソーダのフィギュアに食いついた。クリームの部分が動物の形をしたものや、コーラーフロートいちごフロートなどさまざまな色があった。
「ガシャポンで揃えたんだよ。かわいいっしょ」
自然の流れでベッドの上にぺたんと座り、フィギュアに見入ってしまう咲夜。その後ろから悠もベッドに乗っかって、咲夜の隣に移動して、一緒にフィギュアに夢中になった。
これとこれ、あとこれと興奮し始める咲夜。売り切れ続出があるほどにこのクリームソーダのフィギュアは人気だった。
「咲夜、見て。これ、あざらし」
「うそ、超かわいいね。すごいね、こんなにいっぱい揃えるなんて」
「でしょう。結構、売り切れ多いからさ。探すのに苦労したよ。でも、結構、満足してる。全部で15個はあるかな」
「てか、揃えすぎぃ」
はにかむ咲夜が可愛かった。悠はどきっとする。
「で、でしょう」
そっと、咲夜のそばに寄る。フィギュアを手に取る咲夜の腰に手を回した。棚にフィギィアを戻そうとした瞬間に悠は体を寄せた。
四つん這いの体勢になる。咲夜は、仰向けに寝っ転がっていた。
咲夜の顔に悠の顔が近づいた。心臓が一瞬とまったように体が硬直する。これはどういう状況か。理解に苦しみ、目を思いっきりつぶった。
ふと、唇に柔らかいものが触れた。
「あ、ごめん。あまりにも可愛かったから」
ささっと後退させて申し訳なさそうに離れていく。
「え、あ、うーん。うん、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど、嬉しかった。悠、かっこいいから許す!!」
笑ってごまかした。その対応にも悠は嬉しかった。気持ち悪いって引いてないかなと心配になる。全然そんな様子もなかったことにものすごく安心する。
「よかった。咲夜、優しいね。そういうところ、いいなぁ」
「……え、そう? ありがとう」
悠は嫌いじゃない。むしろ、もっと悠のことを知りたくなった。心臓の高鳴りが止められない。