カラオケにまた来ていた。優柔不断でなかなかはっきりと断れない咲夜は、琉偉の流れに巻き込まれてしまった。
月2回の会合みたいになっているようで週末の金曜日、幼馴染で会うことに
なっていた。
「琉偉、今日,やっさんともっくんって来るの?」
アイスティーにミルクとシロップを入れてストローでかき混ぜた。氷同士がぶつかって音がした。琉偉はスマホをいじって、メンバーの確認をした。
「えっと、グループラインは2人とも既読になってるんだけど、返事はなかったね」
(根回ししてからな。個人ラインで俺と咲夜2人にさせてくれって頼んでてよかったわ)
琉偉はスマホを確認して、咲夜に説明した。咲夜はご不満そうにストローで甘いミルクティーを飲んだ。
「ふーん、そうなんだ。琉偉と2人になってしまうんだね」
「いやいや、部屋に入る前にすでに2人だったろ」
「そうだけど,後から来るのかなって思ってたからさ」
「いいからいいから。俺の歌、聞いておけって」
琉偉はシュワシュワのコーラをグビッと飲んで,マイクを持った。
「2人かぁ……」
翼の言ったことを思い出す。
『琉偉は咲夜のことが好きなんだ』と。その言葉を思い出して、何だか顔が火照ってきた。
慌てて、またミルクティーを飲んで、手をうちわ代わりにパタパタとあおいだ。
「咲夜、どうかした?」
「ううん。なんでもない。私は何を入れようかな」
「おう、俺も真剣に咲夜の歌聞くから」
曲がながれはじめる。琉偉は心を入れて、バラードを歌い始めた。
思わず、その声に聞き惚れて自分の歌を決めるのを忘れていた。
いつの間にか、琉偉の歌が終わってしまっている。
「あー、もう。琉偉は私に聞かせないでたくさんのお客さんに聞かせた方がいいって。何だか、もったいないよ。歌手になるんでしょう」
「あー、うん。そのつもりだけど、俺は1番に咲夜に聞いてほしいよ」
「……ああ、うん。ありがとうとは思うけどね」
タブレットのペンを持って、曲を選んでいた。琉偉は、マイクのスイッチをおいて、咲夜の隣に座った。
「咲夜……」
「ん? なに?」
あれにするかこれにするか曲を選ぶのを迷っていると横で琉偉が話す。
「俺、咲夜好きだから」
からんと氷の崩れる音が響く。テレビ画面ではアーティストが
自己紹介している。一瞬沈黙になった。
「え……」
「咲夜はどう思ってる?」
「あ、いや、だから、その私は、あのさ」
タブレットから目を外して、持っていたタブレットペンがコロコロと転がった。
拾おうとすると目の前に琉偉の顔があった。口にやわらかいものが当たった。ふんわりとミルクティーの香りがする。
「な!! なんで」
「だから、好きだって言ってんじゃん。いやいや、今、言おうとしたでしょう」
「どーせ、いいんでしょう」
「ちょっと勘違いしないでよ!!」
咲夜はテーブルにあったミルクティーを琉偉の顔に思いっきりかけた。
腕で口をおさえて、通学バックのファスナーをしめた。咲夜は駆け出した。
カラオケの一室、扉が自動的にしまっていく。
琉偉は舌打ちをして、ぺろっとかかったミルクティーをなめて制服の袖口で顔を拭いた。
慌てて、カラオケの店を出た咲夜は制服の袖口で口元を拭いた。ポケットに入れていたスマホを取り出して、電話をかけた。
コールが何度も響く。
真っ暗な電車の陸橋の通路の中、ぼんやりとライトが光る。
持っていたスマホに通話画面が表示される。
黒いスエットの姿の悠は、スワイプして、電話に出た。声が辺りに響いていた。