線路のガード下で悠は真っ黒な長袖とズボン、黒いキャップをかぶって、怪しげな雰囲気になっていた。
薄暗い通路で、スマホの通話ボタンをスワイプする。
「もしもし」
ぽたんぽたんと近くに水路がある。水の流れる音がする。
『……悠? ……今どこ? 今、会えるかな?』
息を荒くして、話す咲夜の声に不安になり、その場から駆け出した。今いる悠の場所は、咲夜のいる場所にものすごく近かった。悠が黙って入れておいた咲夜のスマホには、相手に自動的に居場所を送信するGPS機能がついていた。
連日、どこにいるのか把握していたのを黙っていた。
咲夜にラインがめっきり連投してこない理由があった。
「うん。咲夜の家近くのコンビニにいたよ」
嘘ではない。今いる場所から走って5分で着く。咲夜より先回りしてコンビニ出入り口で待つことに決めた。
咲夜は、カラオケ店前の自動ドアの前で深呼吸をした。悠に電話が繋がって、すぐに会えることに安心した。まだ、さっき唇を琉偉に奪われたことが悔しくてまた袖口で何度もぬぐった。
悠が待ってると言っていたコンビニに向かう。辺りは、夜ということもあって、これから飲み屋街に行こうとする
サラリーマンや、カップル連れが多く、混雑していた。
◇◇◇
咲夜は、悠と落ち合って、少し離れたところにある公園のベンチに座った。街灯で薄暗く、
誰も遊んでいないブランコ、滑り台が遊具があった。
「咲夜、大丈夫? はい、これ。さっきコンビニで買ったよ」
悠は、咲夜のためにコンビニで温かいロイヤルミルクティを買っていた。
ペットボトルの小さいサイズだった。悠は、ブラック缶コーヒーのプルタブを開けた。
確かに咲夜はミルクティーは好きだったが、今の状態ではミルクティに触れるのは抵抗を感じたが、
悠を嫌な気分にさせたくなかったため咲夜は黙って受け取った。
「どうかした? なんか、眉毛垂れてるよ。不安なことでもあったの?」
悠は、咲夜の気持ちを汲み取ったようにじっと顔を見つめてそっとよりそった。
優しくて、自分のことを考えてくれる悠に安心感を覚えた。
そばにいて心地よかった。
「う、うん。さっきまでちょっと嫌なことあったけど大丈夫になった。悠に会えたからかな」
「そう? 最近、咲夜が連絡くれないからバチあたったんじゃないの?」
「え、悠に連絡してないから? あー、そっか。大事にしないといけないよね。ごめんね、でも無視してないでしょう。既読スルーはしちゃってたかもしれないけど」
「うん、原因はそれね。放っておくんだもん。気にするよ、かなり」
「怒ってた?」
「ううん。怒ってないよ。もう忘れた」
その言葉を言って、悠は咲夜の頭を自分の胸にひきよせた。ドクンドクンと心臓が打ち鳴らしている。
「悠、すごい音だよ。そ、そんなに緊張して……」
胸の前にあった咲夜の顔に悠は顔を近づけて、そっと額に唇を触れた。コーヒーの香りが広がった。 飲んでいないミルクティーは咲夜の手の中でポカポカと温かい。この空間だけなぜか違う世界なんじゃないかというくらいふんわりとした空気が流れた。咲夜は頬を赤くして、心臓が早くなるのを感じる。悠の腕の中に顔を埋めると、琉偉の時には感じなかった想いがあふれた。もっと悠のことが知りたい。もっと深い関係になりたい。もっと優しくされたい。もっとそばにいたい。たくさんの想いがあふれて悠にだったら怖くないと思った。顔をあげて、目をつぶった。悠は、斜めに顔を曲げて、そっと目をつぶり、口付けを交わした。
また開けていないはずのミルクティの香りがする。
そっと唇同士が触れて、離すと悠は、咲夜の下唇をはさんだ。
まさかそんなこともされるのかとハッとびっくりした咲夜は、心臓がもたなかった。悠の肩を押して、すこし離した。
「いや?」
悠は聞いた。首をブンブンと振る。
「無理にはしないよ」
「ううん。無理じゃないよ」
「もう1回していい?」
「う、うん」
咲夜は恥ずかしいそうな笑顔を見せて、悠は、もう一度優しくふんわりとしたキスをした。
嫌じゃなかった。悠のことを拒否する理由が見つからなかった。今ここにいる悠は、
スカートを履いてない。全身黒色になっているが、どこからどうみても制服こそ着てないが、
男子高校生そのもの。
同性だとは周りはわからないだろう。安心して、一緒にいられた。
咲夜は悠を受け入れられないのは、見た目の問題だろうかと自問自答した。
学校できっと制服のスカートを履いているからだろう。
ぎゅーっとハグをして、笑い合った。
琉偉との出来事はすっかり忘れていた。
夜空には上弦の月が光っていた。