優しく甘い言葉に見た目も劣ることはない。学校から自宅までいつも悠は咲夜を送っている。
いつも別れるのが嫌になる。明日も会えるのにと分かっていてもスマホでメッセージやスタンプのやり取りをしていても、どう思っているのか何を考えているのかと心配になる。
本当に好いていてくれるのか。他にも好かれている女子がいないのか。
翼から聞いていた悠の人気情報。誰かと交際していると聞くと周りのファンたちが騒ぎ出す。
何かいじわるされても平気な咲夜はそれよりも何よりも悠のことを独占したい
気持ちでいっぱいになる。
前まで一緒にいていいのかな。スカートを履いている悠を受け入れなかった。
今は、学校に要望を出して、ズボンでも良いと注文して作り直した悠は
男子と同じズボンを履いている。
もう、それを見るだけでイケメンのアイドルのような学校ではさらに噂が広がっていた。
男子より男子だねとかっこいいと移動するたびに女子たちが群がるくらいだ。
昼休みに購買に行くだけで買わなくても何かしら手一杯にパンが載せられる
くらいだ。
その人気は、3年の琉偉の耳にも入っていた。
「ねぇねぇ、琉偉くん。知ってる? 1年の悠って言う女子なんだけどすごいかっこいい子。宝塚に出てもおかしくないみたいな。今女子たちの間で盛り上がってるよ」
「……ああ、あいつのことか。へぇ、そうなんだ。ここに元祖イケメンの琉偉様がいるっていうのにみんなどこに目をつけてるんだろうね」
「琉偉くんはかっこいいけど、男子だから。いろいろね。問題になる部分もあるっしょ」
「え? 何、どういうこと。男子であることの何が問題なのさ」
「理解できてないってことは勉強不足だよ。女子が求めるものは、理解ある優しさだよ。女子同士ってことはお互いに分かる訳でしょう。私も悠くんなら、彼氏にしたいかも。変にその辺の男子と付き合うより初めてならさ、傷つかないっていうか」
「えーー、理解できねぇ。なにがそんなにいいんだよ」
(だからなのか。咲夜が俺に眼中ないのって)
琉偉はぐったりとベランダのふちにうなだれて、中庭にいる悠に群がるファンを見ていた。
「あそこにいるのは俺だっつーの。ちくしょー」
ファンが集まってくるのを夢見ていたが、文化祭が終わるとみんな忘れてしまうようで琉偉の前には誰も集まらなくなった。歌がうまいだけでは良くない。何か人の心をつかむ要素がなければ定着しないというのを学んだ。
木の枝で休んでいた鳩がバサバサと飛び立った。