咲夜は悠の部屋に入った。モノトーンのインテリアでまとまって
いた。どこからどうみても、男の子の部屋だった。
女子なのにここまで男子なんだとドキッとする。
無意識にベッドの下を覗く。
「咲夜、何、してるの?」
台所から麦茶とお菓子が乗ったトレイを持って、悠は部屋に入った。
ベッドの下を覗く咲夜を不審に思う。
「え? ごめん。男子なら定番かなってベッドの下に……」
「何を想像している?」
咲夜はポリポリと頭をかくと、ベッドの下から物体が出てきた。
「きゃぁ!!」
咲夜は尻餅をついた。そのリアクションに悠は面白くて笑った。
悠の腕の中には白と黒模様の猫がいた。
「残念ながら、咲夜の期待するようなものはそこにはないよ。今は紙より電子書籍でしょ」
悠は猫を抱っこしながら、スマホを出す。漫画アプリを見せてきた。
「ですよねぇー。私もそっち派だから。てか、超かわいいんですけど! 抱っこさせて」
「だめ。この子人見知り激しいから、リビングに置いてくるよ。咲夜がけがしちゃうから」
「えー」
悠は、いつの間にか部屋の中に侵入した猫をリビングに運んで行った。その間に、咲夜は、悠の勉強机を見ていた。写真がたくさん飾られている。
「はい、お待たせ。んじゃ、お菓子でも食べよう」
悠は戻ってくるとスナック菓子の袋をあけた。
悠の写真を見て、はにかむ咲夜が可愛くみえた。
お菓子をそのままにして悠は咲夜を後ろからぎゅっと抱きしめた。
「咲夜がうちに来てくれるなんて嬉しいな」
「え、そう?」
そう言って、お互い見つめ合う。手と手が触れ合った。指を重ね合うだけで体温が伝わってくる。鼓動が早くなるのがわかった。鏡のように頬が赤くなる。
自然の流れで両手をつなぎながら額と額をくっつけた。
お互いに同じ気持ちであることに高揚感を感じた。
テーブルに置いてあったお菓子をそっちのけにベッドに隣同士並んで座って
手を大きさを比べた。指tと指を絡めてぎゅと握った。
温かくて優しかった。
顔を近づけて目をつぶって、唇を触れ合った。
一回だけでは物足りず、何回も重ね合わせた。
背中に羽根が生えたように高揚感が溢れ出た。
「咲夜、今日って……」
「ん? 大丈夫?」
「それじゃ、失礼します……」
「うひゃぁ」
「ダメだった?」
「ううん、び、びっくりしただけ」
「よかった」
悠は咲夜に顔を胸におしつけた。ぎゅーっと抱きしめた。
やっと間近に咲夜を感じられると思うと興奮が冷めなかった。
「嫌なときは言ってね」
「う、うん」
咲夜はドキドキしながら、返事した。悠のペースに任せて、身をゆだねた。どんなふうにすると嫌がるかどんなふうにすると心地よいかを知り尽くしていた。同性でしかわからないことを共有できた。
ふとんの中にもぐって、お互いにほくろの位置を確認した。
「咲夜、首筋にあるね」
人差し指で咲夜の右側の首に触れた。
「自分では見えないから。悠は、頬にある。鏡で見えるね」
「うん」
「何か……すごい恥ずかしい!!」
「……今更だよね。もう1回する?」
「もういい! 間に合ってる。遅くなっちゃうし」
照れ隠しで寝返りをうつ。
「大丈夫だよ、今日、両親帰ってこないから」
「え? そうなの?」
「嘘ぉ」
悠は咲夜をぎゅっと抱きしめた。愛しくて離れたくなくて仕方なかった。後ろからハグをして、幸福感を味わっていた。
「幸せすぎて、もう死んでもいいって思っちゃう」
「えー、悠、死なないで! お願いだから」
「んじゃ、もう1回!!」
「もう、仕方ないなぁ……」
「やったぁ」
咲夜と悠は何度も愛を確かめ合っていた。2人の心は満ち満ちていた。
玄関のドアの開く音を聞くまでは。
慌てて、制服に着替えて、1階に駆け降りた。
「お、お邪魔しています。咲夜です」
「あれ、まぁ、悠にお友達? 珍しいわね。こんにちは。母の律子です。ちょうど良かった。夕ごはん食べてってね」
「そうだよ、食べて行きなよ」
「いいのかな?」
「もちろん」
咲夜は悠の母とともに夕ごはんをご馳走になった。
つい数分前まであんなことをしていたなんて、母の律子には恥ずかしすぎて
言えるはずもなかった。時々悠と目が合うたびに照れてしまう。
兎にも角にも充実した日になったことは間違いない。