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第44話 翼の想い4話

「電車行っちゃったよ」


 拍子抜けしたような顔をする琉偉。翼はあえて話をそらした。


「あ、ああ……。そうだよね。次の時間って何時だったかな」


 琉偉は、ポケットからスマホを取り出して、時間を確認する。

 翼は一緒になって、琉偉のスマホをのぞいてみた。


「ちょっと見ないでよぉ。いやらしいなぁ」


 琉偉はオカマちゃんの真似して話す。冗談だよなと翼はくすっと笑う。


「……ねぇ、それってイエスってことでいいの?」


 翼は突然、無表情になって、反応しなくなった。返事をしたくないみたいだ。


「なんだよ。イエスじゃないのかよ」


「……。す、好きだけど、付き合うのはちょっと」


「へ?」


 少し頬を赤くして期待する琉偉。


「なんで、いいじゃん。付き合おうよ。その方が安心じゃん」


「……先輩、いろんな人から声かけられてるし。私は自信ない」


 モテていることは前から知っている。咲夜のことを前まで好きだった。これがまだ思いが全くないという証明もできない。心は覗けない。


「つ、翼ちゃんは可愛いよ?」


「そ、そそそそ、そういうことじゃないから」


 顔を両手で覆って、隠して後ろを振り返る。


「俺から可愛いって言われて、気持ち悪いって思わないでしょ?」

「別に思わないけど、誰から言われるの?」

「妹から、キモイってしょっちゅう言われる。調子乗るなとか」


 翼はくすっと笑って顔が緩んだ。頬をぷくっと膨らまして可愛いふぐの顔を

する琉偉に指でつんとさすと空気が抜けた。その指を琉偉はつかんだ。



「いいでしょう? 大事にするからさ」

「……嫌になったら、すぐ別れてもいい?」

「う、うん。努力するから」

「んじゃ、もう一回していい?」

「え、何を?」

「ちゅー」

「いや、無理。ほら、次々、乗客さんたち集まってきてるから」

「恥ずかしがり屋?」

「そういうことじゃなくて、公共の場でしょう」

「見えてなければいいの?」

 せませまと積極的に琉偉は、翼の腰に手をまわす。

「もっとゆっくり進めたい!!」

「……」


 琉偉は、翼に頬を叩かれた。それでもちょっと嬉しかった。

 密着して構われてこの上ない幸せだった。

 歯を見せて、ニカッと笑った。

 後ろを振り返って、ホームの行列に並びに行く。

 鼻歌を歌って、琉偉は翼の横に立った。翼の頬は赤くなったままだった。


 アナウンスとメロディが鳴る。

 2人の指と指がつながった。


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