「電車行っちゃったよ」
拍子抜けしたような顔をする琉偉。翼はあえて話をそらした。
「あ、ああ……。そうだよね。次の時間って何時だったかな」
琉偉は、ポケットからスマホを取り出して、時間を確認する。
翼は一緒になって、琉偉のスマホをのぞいてみた。
「ちょっと見ないでよぉ。いやらしいなぁ」
琉偉はオカマちゃんの真似して話す。冗談だよなと翼はくすっと笑う。
「……ねぇ、それってイエスってことでいいの?」
翼は突然、無表情になって、反応しなくなった。返事をしたくないみたいだ。
「なんだよ。イエスじゃないのかよ」
「……。す、好きだけど、付き合うのはちょっと」
「へ?」
少し頬を赤くして期待する琉偉。
「なんで、いいじゃん。付き合おうよ。その方が安心じゃん」
「……先輩、いろんな人から声かけられてるし。私は自信ない」
モテていることは前から知っている。咲夜のことを前まで好きだった。これがまだ思いが全くないという証明もできない。心は覗けない。
「つ、翼ちゃんは可愛いよ?」
「そ、そそそそ、そういうことじゃないから」
顔を両手で覆って、隠して後ろを振り返る。
「俺から可愛いって言われて、気持ち悪いって思わないでしょ?」
「別に思わないけど、誰から言われるの?」
「妹から、キモイってしょっちゅう言われる。調子乗るなとか」
翼はくすっと笑って顔が緩んだ。頬をぷくっと膨らまして可愛いふぐの顔を
する琉偉に指でつんとさすと空気が抜けた。その指を琉偉はつかんだ。
「いいでしょう? 大事にするからさ」
「……嫌になったら、すぐ別れてもいい?」
「う、うん。努力するから」
「んじゃ、もう一回していい?」
「え、何を?」
「ちゅー」
「いや、無理。ほら、次々、乗客さんたち集まってきてるから」
「恥ずかしがり屋?」
「そういうことじゃなくて、公共の場でしょう」
「見えてなければいいの?」
せませまと積極的に琉偉は、翼の腰に手をまわす。
「もっとゆっくり進めたい!!」
「……」
琉偉は、翼に頬を叩かれた。それでもちょっと嬉しかった。
密着して構われてこの上ない幸せだった。
歯を見せて、ニカッと笑った。
後ろを振り返って、ホームの行列に並びに行く。
鼻歌を歌って、琉偉は翼の横に立った。翼の頬は赤くなったままだった。
アナウンスとメロディが鳴る。
2人の指と指がつながった。