ある日の登校時間に悠と咲夜は仲良く手をつなぎながら歩いていた。
「今週の土曜日、どうしようか」
「うん、一緒に出掛けるって言ってたね。地元のお祭りだっけ」
「そうそう」
仲睦まじい姿を周りを気にせず話ながら昇降口に向かうとすれ違いざまに
「キモイんですけど……どっか行けわ!」
「男女!!」
同級生らしい女子2人組がぼそっと2人が聞こえる声で話した。その一言で、悠は背筋が凍った。一気に表情が暗くなる。自分はダメなやつなのかとマイナス思考に陥った。
「悠……大丈夫?」
咲夜は横でしっかりと聞いていたため、悠はかなりショックだろうなと感じていた。
その場でうずくまる。目の前が靴箱だというのに、履き替える力もなくなる。
「……」
段差に手をついた。頭の中がもやもやする。呼吸が乱れ始めた。
「私って、存在価値ないのかな。男女って良くないの? 女だけど、男になりたいって気持ちを持ってはいけない? 人間として生きていちゃいけないのかな」
「そんなことないよ! 悠、落ち着いて。私は悠に生きててほしいよ」
背中をさすってなぐさめたが、まだ気持ちが落ち着かない。呼吸が乱れて、過呼吸を起こした。もう、どうすればいいかわからないとパニックになった。手足がしびれてくる。
「悠!! ゆっくり呼吸して」
咲夜の声が遠くなる。悠はその場に横になって、ずっと呼吸を荒くしていた。すると、突然体がふわりと浮いた。誰かが持ち上げている。
「うわ、軽い。想像以上に軽いな」
琉偉が悠をお姫様抱っこして、運んでいる。
「咲夜、保健室ってどこだっけ」
「あ、うん。あっちだよ」
咲夜は指をさして方向をしめす。
「OK、んじゃ、そっち連れていくわ。救急車呼んでもらった方いいな。先に養護の先生に言えるか?」
「あ、うん。わかった。先に行って説明してくる。琉偉、優しく運ぶんだよ」
「分かってるつーの。ふふふ……まさかお前を抱っこする日が来るとはなぁ。はたから見たら、俺らBLだって思われるじゃねぇかよ。こんちくしょ。ノーマルなのにな」
「琉偉、ふざけてないで、真面目に運んで!!」
横にいた翼が心配そうに悠の背中を支えて言う。
「はいはいはい。わかりましたよーだ」
悠の呼吸の乱れはまだ続いていた。
養護の先生が呼んだ救急車のサイレンが遠くから聞こえてくる。
保健室のベッドに横になり、ペーパーバックをあてられて、呼吸を楽にしなさいと言われても、まだ落ち着かない。酸素ばかり吸い込んでいる。
目の前が真っ暗になる。
悠の唇が紫色になってきた。
救急隊の人たちに囲まれて、事情を聴かれる先生と咲夜、琉偉。
悠の意識が遠のいていく。
記憶がない。
景色が真っ白になる。