チャイムが鳴ってすぐの昼休み。
咲夜は、鼻歌を歌いながら、バックを机の脇から持ち上げて、肩にかけた。
「咲夜、ご機嫌だね。悠と一緒にご飯食べるの?」
「うん、まぁね」
「邪魔しない方がよさそうだね」
「何言ってるの。翼こそ、琉偉と一緒にご飯食べに行くんでしょう」
「……まぁね」
頬を赤くして、照れる翼は咲夜を見て、安心した。お互いに心がほくほくなのがうれしかった。
「あ、でもさ、翼。何か相談したいこととかあったら、時間作るから言ってね。予定空けとくから」
「ありがとう。でも、今のところは大丈夫だから気にしないで」
「そ? それはよかった」
咲夜は何も心配することがないことにほっとした。
「んじゃ、またあとでね」
「うん」
バックを肩にかけて、足取り軽やかに悠との待ち合わせ場所の屋上に向かう。
屋上の扉を開けると頬に風が打つ。
フェンスに腕を乗せている琉偉と、悠の姿が見えた。咲夜は、聞いてはいけないかとささっと扉の影に隠れた。何を話しているんだろうと聞き耳を立てた。
「咲夜のこと、お前に任せるからさ。泣かしたら承知しないからな」
「そもそも、そういうこと考えませんから」
「おー、言ったな。いつもの調子で安心するわ。ああ見えて、咲夜も神経弱いから注意深く見ててくれよ。俺はさ、翼のことに集中するから」
琉偉はくるっと向きを変えて、天を仰いだ。空は青く綿雲ができていた。
「そうですか。そしたら、独占していいんですね。私は咲夜を」
「お、おう。そうだなぁ。ほかの男は許さねぇけど、あんたは許すから」
「何様なんですか……」
「俺様に決まってるだろ」
「……」
「とにかく、大事にしてくれってこと」
「わかりましたよ。琉偉先輩に負けないくらい咲夜のことを大事にしますから」
「お、おう!! そうだな、その域だ。んじゃ、そろそろ行くわ。俺も彼女がいるからさ!!」
琉偉は屋上の扉に向かおうとした。ドキッとした咲夜は口を塞いでさらに静かに待っていた。
「ちょっと待ってください」
「は?」
「私も言わせていただきますが、翼のことを泣かせたらただじゃおかないですからね」
「あー、そのつもりだよ! あんたに言われなくても大事にするっつーの」
舌をぺろっと出して、その場から立ち去った。咲夜がいることに気づかずに階段をかけおりていった。少し間をおいて、咲夜は校庭を見渡す悠に目隠しをした。
「だーれだ」
「声でわかるよ」
「だから、だれだ」
「宇宙人」
「外れ!! なんで間違うの」
目を外して頬を膨らます咲夜に指をぷすーとさして、頬をしぼませた。
「面白いから。咲夜って分かってて言ったんだよ」
「……もう」
「さっきの話聞いてたの?」
「……実は聞いてた」
「うわ、盗み聞きよくないよ」
「だって聞こえたから。ずっと扉の裏で聞いてたよ」
「ふーん、どう思った?」
「えっと……嬉しかった」
「喜ぶこと何も言ってないけどなぁ」
咲夜は悠の頬に不意に口づけた。悠は、頬を赤くして喜ぶ。
「ちょっとそれじゃ、つまらないな」
悠は咲夜の顎くいっとあげて、唇にキスをした。足先から頭までうれしすぎて、ぶるっと震えた。額同士くっつけて、顔を見合わせた。
「「大好き」」
くすくすと笑って、ベンチに座って、仲良く隣同士お弁当を食べ始めた。2人は、ほんの何気ない瞬間が幸せだった。
校舎の上、いつもはくるくるとまわるカザミドリも2人の様子を見たかったのか、ピタッと止まっていた。