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第50話 幸せの再確認

チャイムが鳴ってすぐの昼休み。

咲夜は、鼻歌を歌いながら、バックを机の脇から持ち上げて、肩にかけた。


「咲夜、ご機嫌だね。悠と一緒にご飯食べるの?」

「うん、まぁね」

「邪魔しない方がよさそうだね」

「何言ってるの。翼こそ、琉偉と一緒にご飯食べに行くんでしょう」

「……まぁね」


 頬を赤くして、照れる翼は咲夜を見て、安心した。お互いに心がほくほくなのがうれしかった。


「あ、でもさ、翼。何か相談したいこととかあったら、時間作るから言ってね。予定空けとくから」

「ありがとう。でも、今のところは大丈夫だから気にしないで」

「そ? それはよかった」


 咲夜は何も心配することがないことにほっとした。

「んじゃ、またあとでね」

「うん」


 バックを肩にかけて、足取り軽やかに悠との待ち合わせ場所の屋上に向かう。

 屋上の扉を開けると頬に風が打つ。

 フェンスに腕を乗せている琉偉と、悠の姿が見えた。咲夜は、聞いてはいけないかとささっと扉の影に隠れた。何を話しているんだろうと聞き耳を立てた。


「咲夜のこと、お前に任せるからさ。泣かしたら承知しないからな」

「そもそも、そういうこと考えませんから」

「おー、言ったな。いつもの調子で安心するわ。ああ見えて、咲夜も神経弱いから注意深く見ててくれよ。俺はさ、翼のことに集中するから」


 琉偉はくるっと向きを変えて、天を仰いだ。空は青く綿雲ができていた。


「そうですか。そしたら、独占していいんですね。私は咲夜を」

「お、おう。そうだなぁ。ほかの男は許さねぇけど、あんたは許すから」

「何様なんですか……」

「俺様に決まってるだろ」

「……」

「とにかく、大事にしてくれってこと」

「わかりましたよ。琉偉先輩に負けないくらい咲夜のことを大事にしますから」

「お、おう!! そうだな、その域だ。んじゃ、そろそろ行くわ。俺も彼女がいるからさ!!」

 琉偉は屋上の扉に向かおうとした。ドキッとした咲夜は口を塞いでさらに静かに待っていた。

「ちょっと待ってください」

「は?」

「私も言わせていただきますが、翼のことを泣かせたらただじゃおかないですからね」

「あー、そのつもりだよ! あんたに言われなくても大事にするっつーの」

 舌をぺろっと出して、その場から立ち去った。咲夜がいることに気づかずに階段をかけおりていった。少し間をおいて、咲夜は校庭を見渡す悠に目隠しをした。


「だーれだ」

「声でわかるよ」

「だから、だれだ」

「宇宙人」

「外れ!! なんで間違うの」

 目を外して頬を膨らます咲夜に指をぷすーとさして、頬をしぼませた。

「面白いから。咲夜って分かってて言ったんだよ」

「……もう」

「さっきの話聞いてたの?」

「……実は聞いてた」

「うわ、盗み聞きよくないよ」

「だって聞こえたから。ずっと扉の裏で聞いてたよ」

「ふーん、どう思った?」

「えっと……嬉しかった」

「喜ぶこと何も言ってないけどなぁ」

 咲夜は悠の頬に不意に口づけた。悠は、頬を赤くして喜ぶ。

「ちょっとそれじゃ、つまらないな」

 悠は咲夜の顎くいっとあげて、唇にキスをした。足先から頭までうれしすぎて、ぶるっと震えた。額同士くっつけて、顔を見合わせた。


「「大好き」」


 くすくすと笑って、ベンチに座って、仲良く隣同士お弁当を食べ始めた。2人は、ほんの何気ない瞬間が幸せだった。


 校舎の上、いつもはくるくるとまわるカザミドリも2人の様子を見たかったのか、ピタッと止まっていた。

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