王宮の大広間は煌びやかな装飾で彩られ、多くの貴族たちが華やかな衣装に身を包み集まっていた。しかし、そこに漂う空気は冷たく重い緊張感に包まれている。
王太子カルヴィンは、その場の中央に立ち、凛々しい姿で全てを見渡していた。その隣には、純白のドレスを身にまとった新聖女候補のカトリーナが、柔らかな笑みを浮かべて立っている。そして、彼らの正面には、公爵令嬢であるステラが毅然とした表情で立っていた。
「本日、この場をもって、私は公爵令嬢ステラ=ルミエールとの婚約を破棄する。」
カルヴィンの冷たい声が広間に響き渡る。その瞬間、貴族たちの間にざわめきが広がった。
「婚約破棄…?」
「いきなりそんなことを…!」
ざわつく声を背に、ステラはカルヴィンを真っ直ぐに見据えた。その瞳にはわずかな驚きとともに、冷静さが宿っていた。
「婚約破棄、ですか?」
彼女の声は静かで穏やかだったが、その裏に秘められた怒りと疑念を、カルヴィンは感じ取ったのか、わずかに表情を曇らせた。
「そうだ。」
カルヴィンは冷たい口調のまま続けた。
「君には聖女としての資格がない。それが理由だ。」
その言葉に、ステラの眉が僅かに動く。
「聖女の資格…それが婚約破棄の理由と?」
彼女が尋ねると、隣に立つカトリーナが柔らかな声で口を挟んだ。
「ステラ様。聖女とは神聖な力を授かった存在。ですが、あなたにはその力がありません。」
カトリーナの声は優雅で穏やかだったが、その言葉には明らかに優越感が込められていた。
「聖女の力がない…。それを証明する方法がありますの?」
ステラは冷ややかな笑みを浮かべ、カトリーナを見つめた。その言葉にカトリーナの笑みがわずかに揺らぐ。
「証明…ですか?」
「ええ。あなたがそう断定する根拠を聞かせていただけますか?まさか、ただの噂話や憶測で、私を偽聖女と呼ぶわけではありませんよね?」
その一言に、カトリーナの顔が引きつる。しかし、カルヴィンが彼女を庇うように前に出た。
「ステラ、もういい。」
彼の冷たい声がステラの反論を遮る。
「君は王太子妃となる資格を失った。それだけのことだ。」
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広間に広がる冷たい視線
その言葉が放たれた瞬間、広間全体がさらにざわめきを増した。
「王太子妃となる資格を失った…?何ということだ。」
「しかし、あのカトリーナが選ばれるのか?」
貴族たちの声が飛び交う中、ステラはまっすぐにカルヴィンを見つめ続けた。
「分かりました。」
静かに頷いたその言葉に、周囲が一瞬静まり返る。
「ですが、覚えておいてください。この決定が正しいものであると証明できない限り、私はあなたを許すことはありません。」
彼女の毅然とした言葉に、カルヴィンは一瞬だけ表情を曇らせた。しかし、すぐに冷たい視線を取り戻し、背を向けた。
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追放の宣告
カトリーナが満足そうに微笑む中、カルヴィンは再び口を開いた。
「そしてもう一つ。公爵令嬢ステラ=ルミエールには王宮からの追放を命じる。」
「追放…ですって?」
ステラは冷静を保ちながらも、思わずその言葉を反芻した。追放。それは、ただの婚約破棄以上に彼女の名誉を傷つけるものであった。
「偽聖女と呼ばれた者が王宮に留まることは許されない。それが王家の判断だ。」
カルヴィンの冷たい宣告に、広間の空気がさらに冷たくなった。
ステラは拳を強く握りしめながら、毅然とした態度を崩さなかった。
「分かりました。では、私はこの場を去ります。」
その言葉に、周囲の貴族たちが驚きの声を漏らした。
「だが、覚えておいてください。」
ステラは広間全体に聞こえるよう、はっきりと言い放った。
「あなた方が下したこの決定が間違いだったと分かる日が来た時――その時は後悔なさらぬように。」
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ステラの退場
ステラが広間を後にしようとすると、カトリーナがわざとらしい声で言った。
「お気をつけて、ステラ様。これからの道は険しいでしょうけれど、神の祝福をお祈りしております。」
その言葉に、ステラは振り返らず、軽く笑みを浮かべたまま広間を去った。
「神の祝福?そんなもん、いらんわ。」
その小さな呟きは誰にも聞こえなかったが、彼女の胸の奥には燃え盛る炎が宿っていた。
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