部屋の中、やっぱり女がいた――！

「悠人、まさか彼女の子どもを堕ろさせたの？」

その興奮した女性の声、盗聴器で聞いたあの奔放な女の声とまったく同じだった。

あれ？　どこかで聞いたことがある声だけど、どこで？

「そうだよ、これで信じてくれる？」

悠人の言い方は、あまりにも優しくて、私に向けていた冷たさは、どこにも見当たらない。

ああ、また涙が止まらなくなった。

私は、ほんとにバカだ。書斎で気づくべきだった、あの時点で分かっていたはずなのに、どうしてそのまま誤魔化してしまったんだろう？

これはあまりにも滑稽だ。

彼女が透明化しているのか、それとも私が目が悪いだけなのか？

いや、目が悪いのは本当だ。もしちゃんと見えていたら、どうして今まで悠人の本当の顔を見抜けなかったんだろう？

「やだ、いつ信じていないなんて言ったの？　ただ、あなたと一緒になりたくてたまらないだけよ。もう隠れて会うのは嫌なの。」

その女性の甘い声が、私の背中にゾワゾワっと鳥肌を立てさせた。

あんなにも冷たく接していた悠人が、今は別の女と甘い時間を過ごしている。

部屋の中では勝利の歓声が上がっているかのように、そして、私はまるで落ちぶれた犬のように、傷ついた体を引きずりながら、かつて自分の「家」だと思っていた場所を後にした。

マンションの外では車が行き交い、私はその中で一人、路肩に座り込んでいた。まるでこの街に見捨てられたような気分だった。

スマホを充電しながら電源を入れると、すぐに悠人からの不在着信が2件届いていた。どうやら、私が消えたことに気づいて急いでかけてきたらしい。

昔は、悠人からの電話が来ると、どんなに嬉しかったのに。今、彼の名前を見るだけで、心臓が震える。

流産したばかりの私が誰かに迷惑をかけるのは本意じゃなかったけれど、結衣には真実を伝えなければならないと思った。彼女はいつも私を心配してくれていたから。

電話が繋がった瞬間、胸の中に溢れる感情が爆発して、涙と一緒に声がこぼれた。

「結衣、私、何もかも失った。子どもも、家も、全部……もう行くところがないの。」

しばらくの静寂の後、電話の向こうから落ち着いた男の声が響いた。

「……どこにいる？」

驚いて、私は涙を堪えてスマホの画面を見ると、間違えて桐生宗介に電話をかけていたことに気づく。

「そこ、さっき降りた場所？」

彼は再度問いかけてきた。

この予期せぬ親切に感謝しつつも、迷惑をかけたくない気持ちが強くなった。でも、今は誰かの手助けが必要だ。私は小さく「うん」とだけ答える。

「待ってて。すぐ行く。」

そう言って、彼は電話を切った。

わずか5分後、桐生宗介の車が私の前に再び止まり、窓がゆっくりと下がる。その顔を見た瞬間、彼の端正な顔立ちが見えた。

「乗れ。」