今月は、本当に退屈で切ない日々が続いていた。

結衣はよく私のところに来て、おいしいスープを持ってきてくれたけど、悠人が私に残した傷は、簡単には癒せない。傷が治ったとしても、そこにはしっかりと跡が残る。

悠人から何度か電話があったけど、私は一度も取らなかった。電話が鳴るたび、画面に彼の名前が表示されるだけで、まだ癒えていない傷が再び痛み出すような気がして…。

私は彼がしたことを思い出したくなかった。一度思い出すと、心が引き裂かれるような痛みが込み上げてくる。それが、私を自分で苦しめているようなものだった。

でも、悠人は私が電話に出ないことに気づくと、とうとう家まで来た。

ドアを開けた瞬間、悠人を見て、私は何も言わずにドアを閉めようとした。けれど、彼が手を差し込んで止めてきた。

「洋子、いずれ離婚する。引き延ばすのはお互いに良くない。」

それは違うね、よくないのはお前だけ。だって、あの女、妊娠してるんだし。

彼が焦れば焦るほど、私は余裕を持って答える。彼を不快にさせれば、少しでも自分が楽になるから。

「悠人、あんたとその女のことは勝手にすればいいけど、私には離婚届にはサインしないから。あの女のお腹が大きくなったとき、世間がどう見るか楽しみにしているね。」

悠人は眉をひそめて一歩踏み込んできたけど、部屋を一瞥して、顔色が変わり、足を止めた。

私はその視線を追い、父の遺影を見て、ニヤリと笑う。

「父は昔、私をすごく大事にしてくれてた。もし父があんたがこんなふうに私をいじめてるのを見たら、どうすると思う？」

悠人は少し焦った様子で、進もうとした足を引き戻す。

その隙に、私はドアをバタンと閉める。悠人がドアを叩きながら叫んでいるのを無視して、私はそのまま放置した。

しばらくして、やっと彼の足音が階段を下りていくのが聞こえた。

私は父の遺影を見ながら、結婚当初のことを思い出す。悠人が父の遺影の前で、私に「一生大切にする」と誓ったこと…。今振り返ると、それがまるで冗談みたいに感じられる。

その後、結衣が来て、悠人が来たことを話すと、彼女は大絶賛。

「洋子、このまま離婚を引き延ばしてやりなさいよ。急いで男を探すわけじゃないんだから、好きなように遊べばいいのよ。その女が急いで結婚したがってるなら、あんたが引き延ばして、ドレスを着られないようにしてやればいいわ。もし結婚せずに子供が生まれたら、それはただの隠し子ってことで。」

結衣の言ってることは確かに理にかなってるし、私も強気になった方がいいと思った。今思えば、悠人と深田美智子があんなに堂々と私をいじめられたのは、私に何の後ろ盾もなかったからだし、昔の私は弱すぎたから。

だから、復讐でも、これから誰にもいじめられないようにするためでも、私は変わらないといけない。

そして、数日後、バレンタインデーに結衣が私を誘ってきた。新しい服を持ってきて、「一緒に外に遊びに行こう」と言った。

私は行きたくなかったけど、結局彼女の強引さに負けて、服を着替えることにした。

服を着替え終わる頃、誰かがドアをノックして、その後結衣の怒鳴り声が聞こえてきた。

「悠人、まだ来たのか？一発食らわせてやるから！」

その声と共に、ドスンと拳が当たる音が聞こえた。急いでドレスのファスナーを上げて外に出ると、悠人が腰をかがめて動かず立っていた。

結衣は柔道を習っているから、この一発はただ事じゃない。

「悠人、この一発は洋子のために打ったのよ。覚えておきなさい、私の拳はクズに効くから。」

悠人はやっと体を起こし、唇の端に血がついているのを拭う。目線が結衣を越えて私を見てきた。

「洋子、そろそろ私たちのこと、片付けよう？」

へぇ、バレンタインデーに来て離婚の話をしようだなんて、よくもまあ日を選んだものだ。

「片付けるも何も、さっさとどっか行ってよ。」私はそう返した。

その後、結衣は私を引っ張って外に出ると、悠人を何の躊躇もなく押しのけた。

結衣はわざと私の肩を抱き、大声で言った。

「洋子、今日は遊びに行こう。イケメンを探して楽しんで、気に入ったら一晩だけ遊べばいいのよ。人型ゴミなんか気にしないで。」

私はそんな大胆なことはできないけど、結衣の言葉に刺激されて心が熱くなった。特に角を曲がった時、悠人がその場で立ちすくんでいるのを見た瞬間、気分がすっきりした。

その後、結衣に引っ張られながら美容院に行き、髪をセットしてもらった。鏡の中の自分を見て、びっくりした。中くらいの長さの髪が黒茶色に染められ、毛先に大きなウェーブがついて、まるでモデルみたいになった。

結衣が鏡を見て、ニッコリと笑って言った。

「やっぱり、うちの洋子はかわいいわ！男たちが目を奪われること間違いなしよ！」

その後、結衣は私を「ブルースカイ」というバーに連れて行った。

こういう場所にはあまり来ないけど、入った瞬間、音楽がガンガン鳴っていて、カラフルなライトがチカチカしてて、少し落ち着かなかった。

結衣は私の肩を抱いて、ダンスフロアを歩きながら、「洋子、もっと自由に楽しんじゃえ！」と励ましてくれた。途中、何人か話しかけてきたけど、私はちょっと照れて目を逸らしながら歩き続けた。

その時、ふと目に入ったのは、隅のVIP席に座っている桐生宗介とその仲間たちだった。