ロケットは
位置情報が分からないようにとのことで、
乗客の何割かは青ざめた顔でシートにもたれこんでいた。
ロケットの窓からは何も見えない。
シールドが張られていて到着するまでお楽しみといわんばかりだ。
ちなみにこのロケットに乗っているのは数十人ほど。
WaX7a01N0xx4i//ma、この島はそう呼ばれている。
捕まえれば億万長者も夢じゃない、そんな触れ込みが雑誌で
惑星シティから未開の地へ。
ロケットが空港に到着して乗客はふらふらとした足取りで島に降り立った。
小さな鞄を片手に世界保健機関検査官の隣を素通りする。
カウンターにてIDを差し出すと空港検査官が顔を上げた。
『あら?珍しい・・・観光客なんて。』
『・・・ええ。』
検査官の男は目の前に立つ男に小さなプレートを
生体認証での本人確認、危険物所持などがそれ一つで出来る。数秒だ。
『登録ID95TWXX・・・名前はシユラ。』
『ええ。』
『滞在はどれくらい?』
『二ヶ月ほど。』
シユラはサングラスをずらして検査官に微笑みかける。
シユラの青い瞳が検査官を捉えると彼は顔を赤く染めて
『あ、・・・ええと、この星では住人以外は移動がタクシーになっています。あなたのためにリムジンが用意されていますので空港出ましたら右手に折れて乗り場へ。ホテルには連絡済みです。何かご質問は?』
『いいえ、ありがとう。』
カウンターを離れて乗り場へ向かう。
空港は他の島と
シユラは自分の靴音だけを聞きながら周りを見渡した。
リムジンに乗り込み車が走り出す。
自動運転の車はゆっくりと車の
高速は車が走ってはいるが中に人の気配はない。
観光客を迎える準備だけは
シユラはシートにもたれると鞄から端末を取り出した。
メッセージを打ち込み送信するとすぐに返事が来た。
無事に到着したようでよかった。
さっきカイルに伝えたところようやく顔色が良くなった。
シユラはフッと笑うとメッセージを打ち込む。
お母さんに心配かけてごめんなさいって伝えておいて。
それと話していたデータを送ってくれる?忘れて来ちゃったんだ。
電源を落として鞄に突っ込むと、顔にかかった髪を両手でかきあげた。
青白い肌に薄い色の長い髪が耳元で揺れる。
視線を窓の外へ向けると、丁度高速を降りて町へ向かうところだった。
惑星シティとは違い、古い木造の家がずらりと並んでいる。
道路は
シユラは見たことがない風景だと思った。
そして聞いていたとおりだとも思った。
この島は大昔に
木や草で出来た家に妖精が暮らしているという。
彼らはヴィーガンであり全てに神が宿ると信じているという話もある。
けれどもう存在しない島なのだから、殆どは誰かの
島が実在すると報じられたのはレッドリストに入ったからだ。
世界保健機関が
実際、噂だとこの島では政治などその他もろもろが存在しないらしい。
殆どの情報が噂話程度ではあるが。
ホテルに着くと鞄を置いて端末を開く。
データが転送されたらしくアイコンが光っていた。
データファイルを開く。綺麗に整えられたテキストと写真データが並んでいる。
そのうちのテキストには名前がなく開いてみると伝言があった。
写真を撮ってくるように。シヴァ
シユラがこの島へ来た理由の一つでもある。
父シヴァは多くのコネクションを持つ。
その中で世界保健機関のパトロンをやっている
シヴァへ打診があったが
シユラ自身は富豪との
シユラに任されたのは写真だ。
実際はカメラマンの父が出向いたほうが問題ないのだが、母との時間を
母と二人ならと希望を出したものの一人という
レッドリストに入るような場所への旅行など、喉から手が出るほどのものだろうに。
さて、と端末にあるデータを確かめて
それを頭に収めてから小さな鞄にカメラを入れるとホテルを出た。
さっき乗ってきたリムジンが、シユラ専用だとホテルマンに告げられて、
シティとは違い、この島の風景は目に優しい。
緑が多く、情報では季節になると大きな木にピンクの花が咲くのだという。
データベースの写真はデジタルで色が付けられていて
けれどそれを見るには季節が違うらしい。
リムジンはゆっくりとシユラが希望した場所へと向かっていた。
神が
木造で美しい建物だ。
赤い鳥居と呼ばれるものが立てられており、周りは森に囲まれている。
足元は
リムジンを降りると、アングルの良い場所を探して撮影を開始した。
デジタルカメラに
あらかた写真に収めるとカメラを鞄に押し込んだ。
この施設には人の気配はない。
リムジンからは無人であるとランプがついているので、車に戻るようには
この島はレッドリストに入っているために、住人との接触はまだ避けられている。
そのため無人であるリムジンにはセンサーが
とはいえ、この島に来るのは世界保健機関の人間ばかりだから、こればかりはシユラ自身に
シユラは
暗がりに石が綺麗に積まれている。
触れないようにしてその隣を行くと、木々の間から何かの視線を感じてそちらに目を向けた。
暗がりの森の中、白い民族衣装を着た女が一人こちらを見つめている。
人がいればリムジンがサインを出すはずだが、聞こえる様子はない。
人ではないのか?とシユラは
人ではないものはシティにもいる。
シユラもまた人ではない。
人のフリをした化け物である。
もう一度振り返るとそこには何もなかった。
次の場所へ向かう
子供のような
そういえばこの妖精の
もう血は混ざって姿形は変わってはいるが、雰囲気は穏やかである。
小さい頃からかかっている医者によると、この妖精族は少し
何故らしいかと言えば、混ざり合っているからが正しい答えのようだ。
リムジンが止まり、次もまた宗教施設。墓地だ。
直接写真を撮るのは
綺麗に整えられた場所に文字の書かれた石が置かれており、花が
シティにはもうこうした施設が存在しない。シユラも見るのは初めてだった。
見晴らしの良い場所にそれは並んでいる。
気持ちの良い風が吹き込んで、ここにそれがあることに優しさが感じられた。
とても不思議な気持ちだ。
それからいくつか施設を回り写真を撮る。
ホテルのルームサービスでワインを貰う、特に食事をする必要がないのでグラスを傾けつつ、端末から報告を打ち込んだ。
シャワーを浴びた後だったため、濡れた髪をタオルを拭きつつ、デジタルカメラにコードを差し込んで端末にデータを送る。
センサーでも送れるがシユラはこうした無駄な作業が好きだったりする。
小さくハミングをしながら転送を行うと端末にメッセージが届いた。
楽しそうで良かった。 カイル
母からのメッセージは
端末ではカメラアプリからビデオ電話も可能だが、それをすると話が長くなってしまうからお互いに使うことがない。
もう一つメッセージが届くとデータも送られていた。
明日の予定と、世界保健機関からの連絡だ。
会う必要があるらしく、時間等の指定はないがリムジンを
シユラは、
グラスを傾けつつベットに座ると、頭にかかったタオルで髪を拭いた。