人型アンドロイドにも
博士は目の前に寝転んでいる、ふわふわした毛並みの猫アンドロイドに手を伸ばすと、その毛皮に指を沈めた。
不思議なことに暖かい。
温度センサーがついているらしく、本物の猫と変わりはない。
違うのはこの猫に必要なのは時々、陽に当てることだ。
陽を浴びることで充電が半永久的に可能らしい。
猫の首元に指を触れさせるとゴロゴロと鳴く。
今では家庭の
生きている猫は殆ど
人間も同じようなものだが。
博士は猫の首元にある
猫アンドロイドには色んなものがダウンロードできる。
音楽を入れれば猫は歌うし、本を読み込めば話してくれる。
博士は端末からあるデータを読み込むとそれを猫にダウンロードした。
キュウウンと猫の瞳が細長くなり、数秒して丸い瞳に戻った。
博士は窓辺のカーテンを開けて陽を入れる。
テーブルの上に陽が差し込むとそこに猫は飛び移り、博士が席に着くのを待った。
博士はキッチンへ行きコーヒーを入れる。
まだ熱い湯気の上がるマグを持って席に着くと、目の前の猫の顔を
『ZQ裁判について。』博士の声に猫が反応する。
『ZQ裁判、イエス。ZQ裁判。子供殺し。』
猫は少し可愛らしい声でそう答えた。
『
『2T956XP78400、シティ
『投獄?死刑にはならなかったのか?』
『イエス。』
猫アンドロイドが言うには、被告は当時の
それが広まり、国民のアンドロイド
アンドロイド派閥には多くのユニークな人種が
パトロンを多く抱えている司法は、そことの
当時の国際法はアンドロイドの権利が認められている。
生きている限りは人間と
しかし人間の権利として、成人と子供ではまったく違い、子供の権利が高く
子供は未来を
このことから子供>成人>アンドロイドという図式になる。
この事件は、シンフォニック型0Aと呼ばれる、
0Aには所有者がいないため、
被告の行動データから、身の安全を守るために空港にいたのは明らかであり、0Aアンドロイド、名をエージェントが、子供に
その場にいた被告は子供の落とした銃を拾い、子供を殺害した。
博士はコーヒーを一口飲むと、猫にモニターを使うように指示を出した。
窓辺に置かれたモニターが光り、映像が映しだされる。
チチチ・・・と古いファイルが開く音がする。
モニターには男が二人、女が一人、席についている。
『これではない。裁判を。』
猫は
モニターには古い裁判所が映り、被告席に女が立っている。
裁判が終わり、外では人だかりが出来、口々に何か言っている。
『音声を。』
『我々はサエキさんを応援します!何故アンドロイドを供に生きてはいけないのか?何故認められないのか?』
男の手には小さな手が握られている。
少女のアンドロイドだ。
隣の女は遺影を抱えている。
『私のアンドロイドは壊されてしまった。直したけどすぐに壊れたわ。』
博士は猫に手を上げると、音声は立ち消えた。
『この人たちはアンドロイド
『イエス。アンドロイドと
モニターに映し出される女。囚人服を着ている。被告だ。
その前には弁護士が座っている。
被告はけだるく長い前髪をかきあげると、目の前の弁護士に言った。
『くだらない。あれはただ、私を利用したいだけ。本当は権利なんて
『彼ではない?』
『ええ、貴方は弁護士で
『・・・僕には分かりません。』
『彼らはアンドロイドは機械だからパーツを入れ替えれば、直ると考えている。それは
『あなたは・・・もし・・・直ったとしても・・・。』
『治らないわ。彼を作った博士はいない。パーツを持つシンフォニックも死んでしまった。もう治せないのよ。』
『・・・それでも、あの場であんな発言をすることはなかったんでは?』
『エージェントは殺されたって?真実じゃない。彼らにとって、世界にとってはアンドロイドは物であっても、私には物ではなかった。大切な命ある者だった。あの子供と同じように、同じく愛しく大切な命だったのよ。』
映像はここで
博士はうんと
『なあ、お前はどう思う?私はこれからこの裁判について、子供たちに話をしようと思うんだ。今のこの世界にはこの裁判の頃とは違い、人は
猫は前足を
『マスター。私は猫アンドロイドです。人工AIの入ったロボットです。しがない私の意見ですが、この裁判はとても悲しい結末になりました。被告・サエキREは政治犯として
『悲しいか・・・。』
『はい。悲しい・・・私たちにも悲しいというプログラムがあります。人間とは違うのかも知れません、しかし核の一部が光りを失い、停止します。人で言う死です。悲しみは思考プログラムに入り込み
『うん。』
『マスター、このデータは沢山のことをもたらします。子供たちへお話することは難しく思います。確かに人は思いやりや優しさを持ちます。しかし
『お前はそうではないと思うか?この被告のように。』
『どうでしょうか。私は猫アンドロイドですから。しかし被告の言葉は私の胸に響きます。愛するということはそういうことなのではないかと。』
猫は小さく息を吐くと、目を開いた。
『マスター。あなたはどう思いますか?』
『・・・そうだな。』
博士が答えを口にしようとした時、玄関のチャイムが鳴った。
『おっと失礼。』
博士が玄関へ向かうのを見ながら、猫は瞳を細くした。
『・・・私はそう願っていますよ。』
誰にも聞こえないように呟いて、すうっと目を閉じるとモニターの電源を落とし、自身もまたスリープした。
博士が戻った頃には、猫のデータは消えてしまい、まっさらな状態でそこに寝転んでいた。
にゃあんと愛らしい声で鳴くと、博士の指先に顔を
『うん?・・・あれ?データが消失している?』
博士は端末をいじりながら、猫の顔を見た。
『・・・お前、自分から消去したのかい?』
博士の問いに猫は首を傾げると、ほんの少し瞳を細くして、大きな