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ep02:真っ白なタイムマシン

 タイムマシンを置いてきたという公園にゲンと向かっている。現在の時間は午前4時。普段は外に出る事の無いこの時間、少々肌寒い空気が心地良い。


 だが、身体が冷えた事もあったのか、俺の頭も再び冷静になってきた。


 前を歩いているゲン。60年後から来たという事は、俺の60歳上になる。……と言うことは、77歳。そにれしては、足取りが軽すぎる……何より、今から60年後にタイムマシンが出来るか!? ちょっと想像が付かなかった。


 そもそも、タイムマシンを操る事が出来るなんて、ゲンは博士か何かなのだろうか。留年するかどうか瀬戸際の俺に、そんな未来があるとは思えない。


「あのさ……やっぱ、冷静に考えるとおかしいよ。俺の追試の事も調べれば分からない事は無いし、田伏結奈を好きだってことも、何かヒントがあったんだよきっと」


「……ん? まだ信じてなかったのか? もうすぐで公園に着く。信じるか信じないかは、タイムマシンを見てから決めればいい」


 ゲンは「まったく」と頭を掻きながら、歩を進めた。


 まあ、確かにそうだ。本当にタイムマシンが出てくるとは思わないが、それを見てから決めれば良いだけのことだ。




 最寄りの公園に着くと、公園の一方を指さしてゲンが言った。


「あそこの隅にタイムマシンを隠してある。分からないだろ?」


 確かにその場所には何も無い。ゲンは指さした方向へスタスタと移動していき、その場所で左手をかざした。すると、『ブウン』という音を立て、空間が大きく歪んだ。


「ひっ!」


 思わず俺は声を上げて後ずさった。その場所に、タイムマシンらしきものが現れたからだ。


 サイズは乗用車を縦半分に割ったくらいだろうか。ツルンとした真っ白なボディは、不思議な光沢を放っていた。


「消えていたわけじゃなくて、隠してただけなんだけどな。——これで流石に信じたろ? さ、乗り込んでくれ」


 ゲンがそう言うと、真っ白なボディに一筋の線がぐるりと走った。そしてその線はドアとなり、スーッと音も無く静かに開く。タイムマシンの中は2つの座席と、最後部に大きな機械のようなものが置い置いてあった。


「う、後ろの席に座ればいい?」


「ああ。操作出来るなら、前の席でもいいが? ハハハ、なんてな。姿勢を正して座れ、シートがホールドしてくれる」


 椅子に深く腰を掛けると、シートが自動で俺を包み込んでくれた。苦しくもなく、それでいて、しっかりとホールドされている。今までに体験したことの無い感覚だ。


「じゃあ、行くか……この日が来るのをどれだけ楽しみにしていた事か。さあ、それじゃ出発するぞユヅル!!」


 直後、タイムマシン内は白く光り、『キューン』という大きな音を立てた。そして、シートに背中が張り付くほどのGを感じると、俺の意識は静かに遠のいていった……



***



 ドン……ドン……ドン……


 ドン……ドン……ドン……


 遠くから響く低音で目が冷めた。いや、意識が戻ったと言った方がいいのだろうか。遠くから響くその低音は、和太鼓を思わせた。


「起きたか? 無事に着いたぞ」


 そう言ったのは……


 ゲンだ。


 ゲンの事を思い出すのに、少々時間が掛かった。


「こっ、ここはっ!?」


「1万年前のドーバ島だ。時間は夜の7時」


 俺は勢いよく、タイムマシンを飛び出した。ちょっとした高台に停車しているようで、周りを存分に見渡すことが出来る。


 広大な草原に鬱蒼うっそうとした密林、澄み切った空気の上には、明るすぎる満月……どれもが、現代のものとは全く違うような気がする。


「マ、マジか……本当にタイムリープしたのか……」


 その間にも、太鼓のような音は絶え間なく続いている。その音の方に目を向けると、うっすらと灯りが灯っていた。


「俺たちが今から向かうのは、ユヅルが見ている灯りの方向だ。ちょうど今、雨乞いの儀式をやっている。今からそこに行って、俺たちは神の使いになるぞ」


「か、神の使い……?」


「そうだ。まずはこれに着替えてくれ。神の使いの話は……今から起こることを見ていたら、何のことか分かる」


 手渡されたのはベージュの服だった。何故か、所々に樹脂や革で身体をガードするようなものが付いている。その他に、下着やネックレス、シューズなんかも手渡された。


「見た目はこの時代に合わせてあるが、作りはバリバリの未来製だ。生地は薄いが、風雨は凌ぐし、剣で切っても裂けない。その上、服も下着も半永久的に洗濯不要だ。——そうそう、ネックレスだけは絶対に外すなよ、それが翻訳機になっている」


 は、半永久的に洗わなくていい下着……?


 げっ……と思いながら履いてみたが、今までに体感したことの無い履き心地だった。ジャストフィットしているのに、恐ろしい程の解放感。


 ベージュの服はとにかく軽く、フィット感も素晴らしかった。ほんの少し肌寒かった気温も、着替えたことで適温になったような気がする。ネックレスは首から掛けると、ピタッと胸元に貼り付いた。


「よし、準備出来たな……じゃ、そろそろタイムマシンの電源を落とすぞ。次に起動する時は帰る時だ」


 ゲンはそう言うと、タイムマシン内にあった大型の機械とリュックを取り出した。機械はその場に設置し、リュックはそれぞれが背負う。


 最後にゲンが左手をかざすと、タイムマシンは密林の中に同化してしまった。

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