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ep12:未来のテント

「まあ、タイムリープの話はそれくらいにしておこう……で、さっきの魔物の体当たりだが、どんな感じだったか教えてくれないか?」


 俺たちの初戦、イノシシタイプの魔物と戦った時の話だ。俺はそいつに激しく突き飛ばされた。


「そうだね……例えるなら、全力で走ってきた人間に、思いっきりぶつかられた感じかな……戦闘中はそこまで痛みを感じなかったけど、今になって多少痛みがある」


 ゲンは「そうか……」と声を漏らした。思ったより、魔物は強化されているのだろう。本来の仕様なら、人に小突かれた程度のダメージしかないらしい。ちなみに、攻撃を受けた際には派手なモーションも追加されるようで、それがアトリとクイナを心配させる要因になったのだろう。


「って事は、クイナたちの村で小屋を破壊したモンスターってのは、かなりヤバい奴って事だよね……?」


「ああ……10段階の6……いや、もっと上かもしれないな……」


「じゃあ、俺たちは村を離れない方が良かったんじゃ……?」


「いや……そもそもの仕様では、プレイヤー以外には攻撃しないはずなんだ。俺たちがプレイを始めたことで、魔物たちのターゲットが俺たちに向いてくれるのを祈るしかないな……」


 そう言えば、ある村では死者が出たという噂もあった。出来るだけ早く魔物がいるポイントに行って、少しでも多く魔物を倒す方がいいだろう。




「ゲン様! そろそろ魔物のポイントです!」


 後方からアトリが言った。


「ありがとう、アトリ! 集中しろ皆!」 


 初戦同様、前方後方ともに注意しながらの前進となる。今度はどこから出てくる……?



「ま、前だっ!」


 俺の一言で全員が前を向いた。


 目前に、巨大なカエルの魔物が現れていた。ここからの距離、3メートルほどか……そいつは突然に姿を現した。


「ここは俺にやらせて欲しい!」


 俺は2メートルほどにもなる、細い刀身の長剣を生成させた。——うん、重くない、これなら問題無く振り切れる。


 初戦は武器を出す事もなく、終わってしまった。今回は一撃で倒せずとも、必ず傷の一つは付けてやる。


 俺はジリジリと、カエルの魔物との距離を詰めていく。


「ユヅル! その剣だったら、もう届くだろ! 斬ってしまえ!」


 クイナが言う。だが、俺はまだ剣を振らない。


 こいつの風体からして、きっと……


 そして、俺が次の歩を進めたときだった。その魔物は大きくジャンプした。


「来たっ!!」


 俺は後方から前方へ、天を割くように全力で剣をぐ。


 宙にいる魔物は大きく口を開け、ドロリとした粘膜で覆われた大きな舌を繰り出す瞬間だった。


 ど、どっちの攻撃が速い……!?


 魔物の舌が俺に触れる寸前、振り出した剣は魔物の舌先から一刀両断していた。


「流石です、ユヅル様!!」「凄いぞ、ユヅル!!」


 ボタボタと魔物の肉塊が落ちる中、二人が駆けつけてくれた。


「アイツがジャンプするって見切ってたのか! やるじゃんユヅル!」


 クイナはそう言って、俺に抱きついてきた。


 さっき、架空の未来人に嫉妬したせいだろうか。そんなクイナがとても愛おしく思えた。



***



 魔物討伐初日、そろそろ日が落ちようとしていた。


「暗くなる前に、夕食と寝床の準備をするか……場所はここにしよう」


 見晴らしの良い草原に着くとゲンは言った。皆疲れていたのだろう、一斉にその場に腰を下ろす。


「皆、お疲れさん。昼食の時間以外は殆どバトルだったし、かなり疲れただろう。レベルは今日だけで11にまで上がっている。上出来も上出来だ」


 結局、今日戦った魔物の中では、最初に出会ったイノシシタイプが一番強かったようだ。その他の魔物からは殆ど攻撃を受けることもなく、相手によっては瞬殺する場面さえあった。


「ユヅル、食料調達とテント作り、どちらをやりたい? テント作りの方は、リストバンドの指示に従えば誰でも出来る」


「じゃあ、テント作りやってみたい!」


「オッケー。じゃ、テント作りはユヅルに任せる。アトリとクイナ、野草やキノコを探すのはどちらが上手だ?」


「ゲン、それはアタシに任せてくれ! 食い物を見つけるのは、誰よりも早いぞ!」


 ハハハ。確かにクイナは得意そうだ。


「よし。じゃ、俺とクイナは山に入る。ユヅルとアトリは、テントの設置を任せたぞ」


 ゲンはテントの部品を置いていくと、クイナと山林へ入っていった。



 床用の部品と、壁・天井兼用の部品だけで、テントが出来るのか……これなら、誰にでも設置出来そうだ。


 床用の部品を地面に置くと、パタパタとパネルが広がっていき、自動で地面を覆っていった。そしてしばらく経つと、そのパネルは硬化しながら厚みを増しはじめる。


「ア、アトリ……もう乗ってもいいみたいだよ」


 俺とアトリは、恐る恐るパネルで出来た床に乗ってみた。驚くほど、しっかりとしている。試しにドンドンと足踏みをしたが、まるで大理石の床のようにビクともしなかった。


「さ、流石ですね、ユヅル様……私には一体、何が何やら……」


 アトリはそう言ったが、俺だってそうだ。


 一体、何が何やら……


 壁・天井兼用の部品は、使う枚数で室内の広さや天井の高さが変わるようだ。レイアウト変更は簡単に出来るようなので、とりあえずは全員が入れる程の一室にしておいた。


「なんて素敵……風も防いでくれるし、一生ここに住めそうです」


 玄関を開けて中に入ると、アトリは物珍しそうに室内を歩き回った。中はテントというより、立派な室内だ。広い上に、天井も高い。


 出来上がった壁を、試しにドンドンと叩いてみる。想像通り、ペラペラだった部品は頑丈な壁へと変化していた。


「ユヅル様……一体、これはどういう仕組みで出来ているのでしょうか?」


 天井を見上げながら尋ねるアトリに、俺は「さあ」と笑って答えるしかなかった。

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