アルフレッドの裏切りを知ったジュリアは、自分の心に芽生えた感情に戸惑っていた。孤独で冷たい結婚生活を受け入れていた彼女の中に、絶望が押し寄せる一方で、どこかで反撃の意志がわずかに芽生えつつあった。これまで夫として尊重し、信じようとしてきた人間が、自分をただの駒として扱い、愛人との関係を築いている。その現実は、ジュリアにとって耐え難いものであった。
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愛人の存在
ジュリアは手紙と書類を握りしめ、自室に戻った。ベッドに腰掛けた彼女の手は震え、目には涙が浮かんでいた。アルフレッドが愛人を囲っているだけでなく、自分の家柄や社会的地位を利用して、自分の政治的な立場を強化していることを知った今、ジュリアはもう彼を信じる理由を失っていた。
「私はただの飾り物……それすらも彼の都合のいいように利用されているだけ。」
その考えが頭から離れない。愛人と一緒に過ごすアルフレッドの姿を想像するたびに、胸が痛んだ。彼の冷たい態度の裏には、自分への無関心だけでなく、むしろ軽蔑すら含まれているのだと気づかされた。
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侍女たちとの会話
翌朝、ジュリアは気持ちを整理しようと庭園に出た。そこで、侍女たちが話している声が再び耳に入った。
「公爵夫人はお気の毒ですわ。公爵様があれほど愛人に入れ込んでいるなんて……」
「そうね。でも、あの方はきっと何もおっしゃらないでしょうね。ずっと耐えていらっしゃる。」
その言葉を聞いたジュリアの胸が再び締め付けられるように痛んだ。自分が「耐える妻」として見られていることに気づき、心の奥底から反発の感情が湧き上がった。
「耐えるだけでは、もうだめだわ……」
ジュリアは心の中でそう呟いた。このまま黙っていては、彼の都合のいい人生の中で消耗し続けるだけだと悟った。
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友人への相談
ジュリアは決意を固めるために、唯一信頼できる人物、幼なじみのレオナルドに会うことを決めた。彼なら、今の自分の状況を冷静に判断し、助言をくれるはずだと信じていた。
レオナルドとの再会は、久しぶりだった。彼はジュリアの憔悴した表情を見ると、すぐに何かがあったことを察した。
「ジュリア、君の顔色が良くない。何があったんだ?」
彼の優しい声に、ジュリアは抑えていた感情が一気に溢れ出し、涙を流しながらこれまでのことをすべて話した。
「アルフレッドが愛人を囲っていること、そして私を政治の道具として利用していること……私はどうしたらいいのかわからない。」
レオナルドは話を黙って聞き終えると、静かに答えた。
「ジュリア、君は彼のために生きる必要なんてない。君自身のために何かを選ぶべきだよ。」
その言葉は、ジュリアの胸に深く響いた。彼の真剣な眼差しが、自分を支えようとしていることを示していた。
「でも、私は何もできない。ただの飾り物で、力もない……」
ジュリアは涙声で言った。
「そんなことはない。」
レオナルドは力強く言葉を続けた。「君には君の力がある。それを信じていいんだ。君がどうしたいか、君が選び取るべきだ。」
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行動への決意
レオナルドとの会話を終えたジュリアは、自分の心の中で大きな変化が起きているのを感じた。これまで受け身で生きてきた自分に対して、初めて「行動しなければならない」という意志が生まれていた。
その夜、ジュリアは再びアルフレッドの書斎を訪れた。今回の目的は、ただ証拠を集めるだけではなく、自分がどう動くべきかを明確にすることだった。
書斎には、彼の愛人に送られたさらに多くの手紙や、彼女への贈り物の記録が残されていた。それを一つ一つ確認しながら、ジュリアの心にある決意が固まっていった。
「私はもう、このままではいられない。」
彼女は机の上にあった紙に、手紙を書き始めた。それはアルフレッドに宛てたものではなく、自分自身の未来を見据えた計画をまとめたものだった。
「私は、私自身の人生を取り戻す。そして、彼に私を利用させることはもう許さない。」
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未来への準備
その夜、ジュリアは眠りにつきながら、自分の中で新たな道を切り開く決意を固めた。彼女はこれ以上、ただ耐えるだけの人生を続けるつもりはなかった。アルフレッドの裏切りに対する反撃の準備を進め、自分の尊厳を取り戻すために立ち上がることを誓った。
「私は、もう彼の影ではない。」
その言葉を胸に刻みながら、ジュリアは新たな一歩を踏み出す準備を整え始めていた。