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ポンコツ女神とダル男の異世界ぐーたらライフ
ポンコツ女神とダル男の異世界ぐーたらライフ
雨宮徹
異世界ファンタジースローライフ
2025年05月17日
公開日
1,151字
連載中
女神「あなたには世界を救う使命があります。幾多の試練を乗り越え、仲間を集め、最強の魔王を――」 アル「……ようは、異世界でのんびり暮らすって話だろ?」 女神「ち、違います! ちゃんとカンストしたスキルも用意しました。“天衣無縫の剣”と“不落の巨城”――!」 アル「(スコップで畑掘りながら)ああ、あれ? 便利だよ。ジャガイモ掘るのに最適」 女神「そ、そんな用途のためじゃ……」 ** なお、作者もスローライフを送るために、不定期更新です。

スキルは最強。俺は最弱(やる気的な意味で)

 今日もいい天気だ。空は雲ひとつなく、畑のトマトも上機嫌に赤くなっている。俺はというと、草の上に広げたゴザの上で、腕枕の体勢で空を見上げていた。


「……今日の予定。朝食、昼寝、畑いじり、昼寝、夕食、風呂、寝る。うん、完璧」


 この世界に来て三ヶ月、ずっとこんな調子だ。世間では“世界を救う勇者”とやらに選ばれたらしいが、俺のやる気は転生のときに落としてきた。まあ、拾うつもりもない。


「アルさーん!」


 キラキラと光が降り注ぎ、空からふわりと舞い降りてきたのは、白いローブの女神・リュミエル。転生時に俺にスキルを授けた張本人であり、今日もご苦労なことに様子を見に来たらしい。


「また来たのか。暇なんだな」


「違いますっ! あなたに使命を思い出してもらうために来たんです!」


 ローブの裾をピシッと直して、彼女は真面目な顔で立ちはだかる。ただし、威厳はない。いつものことだ。


「私はあなたに、最強のスキル“天衣無縫の剣”と“不落の巨城”を授けたはずです!」


「うん。もらった。ありがとな」


「ならばなぜ世界を救うどころか、畑仕事にしか使っていないのですかっ!?」


 うるさい。昼寝の邪魔をするな。


「“天衣無縫の剣”で畑耕して、“不落の巨城”でスズメ除けのバリア張ってるだけだが?」


「その使い方、神の想定を三周は超えてます!」


 リュミエルは天を仰ぎ、がっくりと肩を落とす。だが俺は、すでにその反応にも慣れっこだった。


「……そもそもさ。あんたが加減せずにスキル詰め込んだせいで、戦う意味すらないって話、したよな?」


「良かれと思ってっ!」


 ぴしりと背筋を伸ばす女神。まったく反省の色はない。


「しかも、スキル名。“天衣無縫の剣”と“不落の巨城”って、和風すぎだろ。この世界、ヨーロッパ風じゃなかったっけ?」


「えっと……日本人向けに分かりやすいかなって……」


「つまり、思いつきか」


「神にも思いつきはありますっ!」


 はいはい、と俺は腰を上げる。


 昼寝には少し早いが、トマトを一個もいでかじった。甘みと酸味がちょうどいい。俺の畑スキル、もはや神の領域。女神様を凌駕してしまった。


「で、今日は何しに来たんだよ」


「ですから、使命を……」


 やれやれと手をひらひらさせて、俺はゴザをぽんぽんと叩いた。


「監視なら、座ってけよ。風が気持ちいいぞ」


「む、では特別に。あなたがちゃんと反省してるか見張るためですからねっ」


 なんだかんだ言いながら、女神は俺の隣に腰を下ろした。顔を赤らめながらも、草の匂いを嗅いで、こっそり靴を脱いでいる。


 ……こいつ、絶対楽しんでるな。


 俺は腕枕の体勢に戻って、目を閉じた。


「……すぅ……すぅ……」


 数分後、聞こえてきた寝息は俺のものではなかった。女神もまた、スローライフに堕ちるらしい。


 まあ、平和ならそれでいい。世界なんて、誰か暇なやつが救えばいいさ。

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