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冒険者ギルドの受付嬢ですが元勇者パーティーの剣聖というのはナイショです
冒険者ギルドの受付嬢ですが元勇者パーティーの剣聖というのはナイショです
柳アトム
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月18日
公開日
2.7万字
連載中
勇者パーティーの剣聖でSランクの冒険者であるシルヴィア=シルヴァーナ(通称:シルシル)は勇者に告白するも撃沈。傷心を抱えて故郷の村に引き籠ります。 そこで冒険者ギルトの受付嬢をしますが、次々と問題が発生して……。 これはSランク冒険者という正体を隠すシルシルが次々と事件に巻き込まれるシリアス&コメディ、そしてハートフルな日常の物語です。 「プチコン01・受付嬢」に参加させていただきます。 ( ᵕᴗᵕ ) 良い評価をいただけるよう頑張ります。 (๑•̀ㅂ•́)و

第一話 シルヴィア=シルヴァーナ

 私の名はシルヴィア=シルヴァーナ。冒険者ギルドの受付嬢だ。


 私が今居いまいるこの場所は、王都から遠く離れた田舎の農村マーカロン村───私の生まれ故郷だ。

 私はこの村で、冒険者ギルドの受付嬢をしている。


 冒険者ギルドと聞くと、多くの冒険者が訪れ、依頼の斡旋や冒険で獲得した戦利品の売り買いで賑わう都会の冒険者ギルドを想像するだろうが、マーカロン村の冒険者ギルドはそういった場所ギルドとは少し様子が違う。

 平和な農村の冒険者ギルドは依頼が少なく、そうなると必然的に冒険者の数も少なく、いつも閑散としていて静かなのだ。


 その為、私は毎日が暇だった。

 眠くなったら人目をはばからず、大口を開けて欠伸あくびをするくらい暇だった。


 そんな長閑のどかな日々を過ごす私の姿を見れば、誰しも私はどこにでもいる普通の受付嬢だと思うだろう。


 だがそうではない。

 私は皆に正体を隠しているが、実は正真正銘のだ。


 しかも先日まで王都を拠点に活躍する勇者パーティーの一員で、さらに私は勇者から「俺の背中を任せられるのはシルヴィアしかいないぜ!」と全幅ぜんぷくの信頼を寄せられ、私も勇者に対して「勇者あなたと一緒なら百万の敵を相手にしたって負ける気がしないわ!」と死線を潜り抜ける刎頸ふんけいともでもあった。


 私は勇者の期待に応えるべく剣の腕を磨き、ついには王国で並ぶ者のいない最強の剣聖となっていた。

 そして『殺戮の女神』『血塗られた赤い女王レッドクイーン』『死神シルヴィア』などと恐れられていたのだ。


シルヴィアの前では魔王も裸足はだしで逃げ出す』とまで言われ、私は富と名声のすべてを手に入れていた。


 しかし、そんな私でも一つだけ手に入れられないものがあった。


 それは勇者の心だ。


 私はいつしか戦友である勇者に恋心を抱いてしまっていたのだ。

 その思いは日増しに膨らみ、ついに私は勇者に告白をした。


 そして───。


 そして忘れもしない───。忘れたくても忘れられない。


 私が思いを伝えた時の勇者のあの顔───。


 私にそのようなことを告白されるなんて微塵も予想していなかったという驚きと、毛先ほども私を異性として見ていなかったことを如実にあらわした勇者のあの顔。


 あんなに狼狽うろたえた勇者はみたことがなかった。


 勇者は「す、すまない、シルヴィア。君のことは好きだがそれは冒険を共にする戦友としてだ。男女の関係で君の期待には応えられない」と土下座をした。


 いつも冷静沈着で聡明で正しい判断で仲間を率い、威風堂々を絵に描いたような勇者にそのようなことをさせてしまった後悔、そして自己嫌悪。

 そして恋に破れ、可能性が金輪際二度と───例え天地がひっくり返ろうとも絶対にありえないと知った絶望。


 気がつくと私は王都から逃げ出し、故郷のマーカロン村に戻っていた。


 村の皆は私が突然帰ってきたことにとても驚いた。

 それは当然の事だった。

 何故なら私は村を出るときに「こんな田舎はもうヤダ! 出ていく! もう絶対に帰ってこないんだからね!」と捨て台詞を吐いて出ていったからだ。


 だが、それでも村の皆は私を温かく迎えてくれた。

 とてもありがたかった。


 村の皆は口々に「なんで戻ったの?」と私に尋ねた。

 正直に言うと、そこはそっとしておくべきでは?と思ったりもしたが、理由くらい聞きたくなるのが人というものだ。

 私は理由を答えようと思ったが、しかし「失恋したからです」とは言えず「いや~。王都で冒険者をしてたんだけど膝に矢を受けてしまってね。引退を余儀なくされたんだ。不覚不覚」と後ろ頭を掻いて嘘をついた。


 胸が痛んだ。

 ずけずけと理由を詮索する厚かましい村の皆だが、そうはいっても突然帰ってきた私を温かく迎えてくれたのだ。

 そんな皆の優しさに、私は偽りを返すという不義理を働いたのだ。


 だが、どうか許して欲しい。今はまだ真実を口にすることがどうしてもできないのだ。


 私は申し訳ない気持ちで一杯になったが、そんな私に村の皆はさらに申し訳ないという思いを膨らませる追い打ちをかけてきた。


 村に戻ったのなら生活の為に仕事が必要だと、膝を痛めた私でもできる仕事を「あれならできるんじゃないか?」「これならできるんじゃないか?」と相談を始めたのだ。


 正直に言うと、それは有難迷惑だった。

 私は仕事をしなくても、一生遊んで暮らせる富があったからだ。


 だが純然たる善意で話し合いをする村人の熱意に水を差すことができなかった。


 そして───。


「膝を痛めているなら座ったままでもできる仕事がいいよね。そうだ。冒険者ギルドの受付嬢がいなくてギルドマスターが困ってたよ。やってみたらどうだい?」と勧められた私は「本当ですか? 助かります。こんな膝を抱えてどうしようかと悩んでいたんです」と返事をしてしまったのだ。


 そういった経緯で、今、私は冒険者ギルドの受付嬢をしている。


「まあ、いいだろう。傷ついた心を癒すには丁度いい」


 私は溜息交じりに呟いた。

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