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実証! 元勇者パーティ最強説
実証! 元勇者パーティ最強説
藤原ライカ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月19日
公開日
4,460字
連載中
世界を救ったのに……まさかの厄介払い。 剣士は国境に追いやられ、聖者は森番にさせられ、賢者は塔に引きこもった。 勇者は王都で、酒屋のマスターになった。 不遇の元勇者パーティ、魔王が復活して再結成。 もう、タダ働きはしないぞ。 元勇者パーティ『前金払い制度』導入しました。

伝説の勇者パーティ

第1話 ガルダハン



 大陸の地下世界にある魔界から或る日。


「これが地上か。やけに明るいな」


 気まぐれを起こした魔王ガルダハンがやってきた。


 青く澄んだ空を見上げ、まぶしそうに目を細めた魔王は、おもむろに右手を上げた。ためらいなく魔力が放たれたあと。美しい緑の大地は、一瞬にして焦土と化し、大陸から4つの国が消滅した。


 山は崩れ、谷は埋まり、更地となったその土地に、魔王ガルダハンは巨大な魔王城を築き、地下には迷宮を造った。


 迷宮の最深部に玉座を据える。


「悪くないな」


 そうつぶやいて、また右手を高く掲げた。


 ふたたび、ためらいなく放たれた魔力の波動が地上に伝わると、地鳴りが響き渡る。かたい断層が崩れ、大地が隆起し、また地上から4つの国が消えた。


 魔王ガルダハンが起こした地殻変動により、魔王城の周囲には灼熱の沼地があらわれる。地下深くの魔界に通じた沼底からは、魔の瘴気しょうきがあふれ、あたり一面に漂った。


 魔界とおなじ瘴気を嗅ぎつけた魔王の眷属は、次々と地上にやってきて、沼地の上に浮かぶ魔王城を見て、その周囲に広がる未開の地を見渡した。


「わたくしも気に入りましたよ。それでは、わたしくしは主君の巨城の南に小さき城を構えましょう」


「オマエが南ならば、俺は東にちっぽけな城塞でも築くとするか」


「それじゃあ、僕は北にしようかな。見晴らしの良い塔でも建てよう」


「残ったのは西かあ。まあ、いいわ。遊戯場ならどこでもいいから」


 魔王の側近である眷属たちは、濃い瘴気が漂う灼熱の沼地を、東西南北で囲い込むように、それぞれが新たな根城を築き、魔界と変わらず主君ガルダハンに仕えた。


 そうして一夜にして、大陸の半分が魔王ガルダハンの直轄領となったのである。


 大陸での覇権をめぐり、領土争いをしていた地上の王たちは、強大すぎる勢力を前に、一時休戦を余儀なくされた。


 円卓会議を開くこと数回。各国は一致団結して連合軍となり、大勢力で南から魔王軍に戦いを挑んだ。その結果は、全滅。まったく歯がたたなかった。


 さらに半年後、円卓会議には各国の軍師、戦術家、兵法学者が集められ、知略をめぐらせ、戦法を練り、さらなる大勢力となった連合軍は一大決戦をしかける。


 しかし、東西南北からの一斉攻撃を仕掛けたものの、軍勢はひとつとして、魔王軍の根城を落とすことができず、またも全滅した。


 拡大しつづける魔王直轄領を前にして、もうこれ以上、自国の軍勢を失うわけにはいかなくなった劣勢の王たちは、円卓で苦肉を策をたてた。


「大陸に伝わる『いにしえの書』には、地上に魔が現れしとき、天の神々は、魔を砕く聖なる者たちを地に遣わす、と記されている」


 西の大国の暴王が、エメラルドの指輪をさすりながら云った。


「その伝説は知っているわ。勇者とその一行パーティにまつわる英雄譚でしょう。なるほど……もう、それしか打つ手はないようね」


 南の大国の悪名高き女王は、自慢のルビーの耳飾りを揺らしながら応じる。


「そうだな。何もしなければ、我々は無能な王として後世に名を刻むことになる。それよりも厄介なのは、我々を非難する愚民どもは、近く暴徒と化すだろう」


 北の大国の愚王は、黄金の首飾りを指で弄びながら、「ああ、面倒だ」と溜息を吐いた。


「それならば、西王がおっしゃるように、民たちに希望を与えてやればよいのでは? たとえ勇者一行パーティが討伐に失敗しても、また別の英雄たちを探し、神官どもに『天より、あらたな神託がくだった』とでも云わせればよいでしょう」


 サファイアの腕輪をうっとりと眺めた東の凡王は、西の王に媚びた。


「わたしも賛成です。討伐ができても、できなくても被害は最小限ですむ。たとえ失敗がつづいたとしても、民の怒りは不甲斐ない『勇者一行パーティ』に向けられるだけのこと……いち、じゅう、ひゃく、ふふふ」


 小国の代表である王は、金貨を数えながら微笑んだ。


 各国の王たちを見回した西の暴王は、


「よし、それぞれの国より、強き者たちを集め、魔王ガルダハン討伐の『勇者一行パーティをつくれ。数は……そうだな」


 ダイヤモンドでつくられたお気に入りのサイコロを、ふたつ振った。


 円卓に転がったサイコロの目は、5と5。


 「キリがいい。手はじめに10ほどのパーティを放ってみるか」


 輝くサイコロをモノ欲しそうに見つめた小国の王は、金の歯をみせて嗤った。


「いいですね。さてさて、どの御国の代表パーティが、魔王ガルダハンの首を獲れるのか……ここはひとつ、みなさんで賭けてみませんか?」


 数日後。


 各国が信仰する神々のお告げが、不可思議なことに一斉にくだった。


 神託により選ばれた勇者を中心に、剣士、賢者、魔術師、聖職者で編成された各国の精鋭パーティは、全部で10。


 派手な壮行式で見送られ、それぞれのパーティは、それぞれのルートで、魔王城に向けて旅立った。


 一年後。


 各国の勇者パーティは、魔王城に到達することなく全滅した。


 精鋭ぞろいといわれたパーティは、眷属たちの領地に踏み込むことができないまま、魔物たちに襲われて命を落とし、わずかな瘴気にも耐え切れずに倒れていった。


 それから数週間後。


 奇妙なことに各国ではまた一斉に神託がくだり、複数の勇者が選ばれた。


 次こそはと、希望と期待に満ちた民たちに見送れたパーティは全部で8。全滅の報せが届いたのは、二年後だった。


 それからも神託が下ること計5回。全滅の報せは、数年おきだった。


 各国の王たちの思惑どおり、魔王を恐れる民衆の怒りは「不甲斐ない」「役立たず」「臆病者たち」と勇者パーティに向けられ、形式だけとなった壮行式では、野次と怒号が飛び交う。


 そうして十数年を経て、魔王領は大陸の3分の2まで広がった。暗黒の時代が訪れた大陸。大陸の王たちの半分は国を捨てた。


 残った王たちは賭けにも飽きて、魔王軍の侵攻も小康状態となってきたことから「もうこのままでいいか」と投げやりになり、夢も希望も失った人々の心に、絶望が広がったとき。


 とある小国の神殿で、前触れなく神託がくだった。







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