「や、やべえ、こいつはやべえって!」
「ブラーヤークトの装甲じゃダメだ、協力しないと……ぎゃああ!」
複数の冒険者が
『ゴオオオォォッ!』
むしろ反撃で蹴り飛ばされて、アドヴァンスド・アーマーにひびが入って吹っ飛ばされるのがおちだ。
威力もすさまじく、ヤークト型やアドベンチャー型なんて市販品じゃ耐えられない。
「スキルメモリ発動、『シールドアップ』!」
そのうち冒険者のひとり――しかも
そんな挑戦者を見ても、ブラッドグリフォンはさほど動じない。
『ガオオオオ!』
口から衝撃波を吐き出すと、可視化された魔法の防御壁がボロボロと崩れてゆく。
「そんな、鋼龍の魔法防御が破られるなんて!?」
『にゃ~ははは! ブラッドグリフォンの衝撃波は、並の防御壁を貫通するで!』
「ふざけんな、こんなところで、ぐわッ!?」
そして実況の楽しそうな声と共に、鋼龍型の冒険者も地面にへばりつき、リタイアした。
さて、こうなると初心者の俺の目から見ても分かるくらい、一方的なゲーム展開だな。
「こっちの攻撃も通用しねえ、これじゃあ……ひいい!」
これじゃあゲームというより、
――もっとも、俺はハナから、ブラッドグリフォンの圧勝なんて思ってねえけど。
――なんせ今回は、俺が知る最強の冒険者がふたりもいるんだからな。
『……おや? なんや、あのアーマーは?』
ひとりは、モンスターの眼前でがちゃりと鉄騎槍を構えるリゼ。
「人に害をなす悪しき獣め! この僕、リーゼロッテ・アイレンベルクが討ち倒すッ!」
「あの騎士が動くみたいだぜ!」
「どんな戦い方をするのかしら!」
観客席の期待を一身に受けるアーマー『シュタルドラッヘ』は、ブラッドグリフォンが爪を振り下ろそうとするよりも先に、空高く飛び上がった。
しかもモンスターが翼で攻撃しても、直角的な飛行で回避するんだ。
『な、なんやて!? アドヴァンスド・アーマーが、空を飛び回るなんてあるかいな!?』
“嘘だろ、空飛んでるぞ!”
“ドイツで噂の新型か!”
視聴者モニターも熱くなって、コメントで埋め尽くされてゆく。
「はあああッ!」
『グギョオオオオオ!』
さらにリゼは槍を加速させ、ブラッドグリフォンの翼を見事に
『それだけやない、槍の突進がブラッドグリフォンの翼を貫きおった! 信じられへん、相手はデンジャーモンスターやで!?』
“かっけええええええ”
“うおおおおおおお”
“赤鬼みてえじゃん!”
敵の攻撃をものともせず、槍でブラッドグリフォンを串刺しにするリゼ。
「慈悲は与えない! シュタルドラッヘの鋼の牙を前に、朽ち果てるがいい!」
『ギャアアアアアスッ!』
そうしてたちまち、穴だらけになったモンスターは地に斃れ伏した。
信じられないほど大きな歓声の最中、シュタルドラッヘがダンジョンの床に舞い降りる。
『すっごぉ~いっ! ドイツから来た騎士、リーゼロッテ・アイレンベルク選手が、ブラッドグリフォンを瞬殺してしもうた~っ!』
「この勝利、そしてこの槍……すべて、我が主君に捧げます」
モニターに向けてリゼが深く
シュタルドラッヘ、確かソーマ・エレクトロニクスのドイツ支部で造られたんだよな。
だったらケイシーさんがあれを日本に持ってきたのは、鋼龍二式乙型と同じで、量産に先駆けたアピールのためなんだろうか。
なんて考えていると、今度は別の方向からざわめきが聞こえてきた。
『ちょっと待ってや、あれもすごいで! プリンセス・深月が新しい武器で、ブラッドグリフォンに大ダメージを与えまくってるがな!』
ダンジョンの西側――リゼと真逆の方角でもう1頭のブラッドグリフォンと単身戦ってるのは、ニンジャのようなアーマーを身に纏っている深月だ。
装着しているアーマーはスタイリッシュな外見の鋼龍二式乙型。
ただし、持っている武器はこれまでのような大きな弓じゃない。
「『四連
ぐっと体をかがめ、モンスターめがけて
深月の身の丈ほどもある巨大な手裏剣が飛んで行き、ブラッドグリフォンの翼をあっという間に切り裂いたんだ!
『オオオオオォォッ!?』
いくら巨体のモンスターと言えど、手裏剣で片翼を切られれば絶叫する。
もう飛べなくなったブラッドグリフォンがのたうち回るさまを、深月は静かに見つめている――きっと、商品の売り文句とか考えてるんだろうな。
『魔法スキルの力を維持したまま手裏剣や! 今入った情報によると、どうやらあれも、ソーマ・エレクトロニクスの新商品らしいで!』
「あんなのズルですよ!」
「そうだよ、私にも使わせてよ!」
ふと、隣の席から男女カップルの声が聞こえてきた。
リア充爆発しろ……じゃなくて、ここはしっかり教えておいてやらないとな。
「仮に手に入れたとしても、お前らじゃ使いこなせないぞ」
「「えっ?」」
きょとんとする二人の方を見ずに、俺が言った。
「スキルメモリを発動させたまま、魔法エネルギーを武器に上乗せして投擲するのは至難の業だ。深月のマナ総量の計算と集中力があって、初めて使いこなせるんだよ」
俺の言う通り、深月が今使っている武器は、相当の習熟度がないと扱えない。
カップルもそれを察したのか、なるほど、とだけつぶやいて試合に集中し始めた。
「威力、スキル付与機能、ともに問題なし。テストは終わらせたから、早めに仕留めるね」
そして売り文句を思いついたらしい深月は、もう容赦しない。
手裏剣を投げつけ、戻ってきた手裏剣をもう一度投げつける。
そのたびにブラッドグリフォンは切り刻まれ、あっという間に肉塊へと変わった。
『ガアウゥッ……』
ブラッドグリフォンがダンジョンの床下に回収されると、またも大歓声が巻き起こる。
“すっげえええええ”
“やべえ、あれ超欲しい!”
“ソーマ新商品はよおおおおお”
そんなコメントを見て気分が上がったのか、深月は珍しくモニターに向かってピースサインを作って、ぼそりと呟いた。
「今年中に発売予定……皆、楽しみにしてて」
おいおい、さっきまでずっと考え込んでたのに出てきたのがそれかい。
軽くツッコもうとする前に、実況音声がダンジョン中に鳴り響いた。
『蒼馬深月、ブラッドグリフォン討伐でゲームクリア! この時点でゲームは終了――クリアした冒険者は蒼馬深月と、ドイツからの刺客、リーゼロッテ・アイレンベルクやぁーっ!』
「「うおおおおおーっ!」」
そして、今日一番の観客の声がとどろいた。
俺も思わず、席を立って拍手した。
――いやあ、やっぱりふたりともカッコいいな、なんて思いながら。