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第36話 騎士と忍者!

「や、やべえ、こいつはやべえって!」

「ブラーヤークトの装甲じゃダメだ、協力しないと……ぎゃああ!」


 複数の冒険者がたばになってかかっても、ブラッドグリフォンはびくともしない。


『ゴオオオォォッ!』


 むしろ反撃で蹴り飛ばされて、アドヴァンスド・アーマーにひびが入って吹っ飛ばされるのがおちだ。

 威力もすさまじく、ヤークト型やアドベンチャー型なんて市販品じゃ耐えられない。


「スキルメモリ発動、『シールドアップ』!」


 そのうち冒険者のひとり――しかも鋼龍こうりゅう型という高級品を纏う男が、スキルメモリで防御力を高めて突進していった。

 そんな挑戦者を見ても、ブラッドグリフォンはさほど動じない。


『ガオオオオ!』


 口から衝撃波を吐き出すと、可視化された魔法の防御壁がボロボロと崩れてゆく。


「そんな、鋼龍の魔法防御が破られるなんて!?」

『にゃ~ははは! ブラッドグリフォンの衝撃波は、並の防御壁を貫通するで!』

「ふざけんな、こんなところで、ぐわッ!?」


 そして実況の楽しそうな声と共に、鋼龍型の冒険者も地面にへばりつき、リタイアした。

 さて、こうなると初心者の俺の目から見ても分かるくらい、一方的なゲーム展開だな。


「こっちの攻撃も通用しねえ、これじゃあ……ひいい!」


 これじゃあゲームというより、蹂躙じゅうりんじゃねえか。



 ――もっとも、俺はハナから、ブラッドグリフォンの圧勝なんて思ってねえけど。

 ――なんせ今回は、俺が知る最強の冒険者がふたりもいるんだからな。



『……おや? なんや、あのアーマーは?』


 ひとりは、モンスターの眼前でがちゃりと鉄騎槍を構えるリゼ。


「人に害をなす悪しき獣め! この僕、リーゼロッテ・アイレンベルクが討ち倒すッ!」

「あの騎士が動くみたいだぜ!」

「どんな戦い方をするのかしら!」


 観客席の期待を一身に受けるアーマー『シュタルドラッヘ』は、ブラッドグリフォンが爪を振り下ろそうとするよりも先に、空高く飛び上がった。

 しかもモンスターが翼で攻撃しても、直角的な飛行で回避するんだ。


『な、なんやて!? アドヴァンスド・アーマーが、空を飛び回るなんてあるかいな!?』


“嘘だろ、空飛んでるぞ!”

“ドイツで噂の新型か!”


 視聴者モニターも熱くなって、コメントで埋め尽くされてゆく。


「はあああッ!」

『グギョオオオオオ!』


 さらにリゼは槍を加速させ、ブラッドグリフォンの翼を見事に穿うがち抜いた。


『それだけやない、槍の突進がブラッドグリフォンの翼を貫きおった! 信じられへん、相手はデンジャーモンスターやで!?』


“かっけええええええ”

“うおおおおおおお”

“赤鬼みてえじゃん!”


 敵の攻撃をものともせず、槍でブラッドグリフォンを串刺しにするリゼ。


「慈悲は与えない! シュタルドラッヘの鋼の牙を前に、朽ち果てるがいい!」

『ギャアアアアアスッ!』


 そうしてたちまち、穴だらけになったモンスターは地に斃れ伏した。

 信じられないほど大きな歓声の最中、シュタルドラッヘがダンジョンの床に舞い降りる。


『すっごぉ~いっ! ドイツから来た騎士、リーゼロッテ・アイレンベルク選手が、ブラッドグリフォンを瞬殺してしもうた~っ!』

「この勝利、そしてこの槍……すべて、我が主君に捧げます」


 モニターに向けてリゼが深くこうべを垂れると、観客席からも黄色い声が上がった。

 シュタルドラッヘ、確かソーマ・エレクトロニクスのドイツ支部で造られたんだよな。

 だったらケイシーさんがあれを日本に持ってきたのは、鋼龍二式乙型と同じで、量産に先駆けたアピールのためなんだろうか。

 なんて考えていると、今度は別の方向からざわめきが聞こえてきた。


『ちょっと待ってや、あれもすごいで! プリンセス・深月が新しい武器で、ブラッドグリフォンに大ダメージを与えまくってるがな!』


 ダンジョンの西側――リゼと真逆の方角でもう1頭のブラッドグリフォンと単身戦ってるのは、ニンジャのようなアーマーを身に纏っている深月だ。

 装着しているアーマーはスタイリッシュな外見の鋼龍二式乙型。

 ただし、持っている武器はこれまでのような大きな弓じゃない。


「『四連魔導回転刃まどうかいてんじん』、スキルメモリ発動――『サンダーエッジ×2クロスツー』」


 ぐっと体をかがめ、モンスターめがけて投擲とうてきした武器は――手裏剣だ!

 深月の身の丈ほどもある巨大な手裏剣が飛んで行き、ブラッドグリフォンの翼をあっという間に切り裂いたんだ!


『オオオオオォォッ!?』


 いくら巨体のモンスターと言えど、手裏剣で片翼を切られれば絶叫する。

 もう飛べなくなったブラッドグリフォンがのたうち回るさまを、深月は静かに見つめている――きっと、商品の売り文句とか考えてるんだろうな。


『魔法スキルの力を維持したまま手裏剣や! 今入った情報によると、どうやらあれも、ソーマ・エレクトロニクスの新商品らしいで!』


「あんなのズルですよ!」

「そうだよ、私にも使わせてよ!」


 ふと、隣の席から男女カップルの声が聞こえてきた。

 リア充爆発しろ……じゃなくて、ここはしっかり教えておいてやらないとな。


「仮に手に入れたとしても、お前らじゃ使いこなせないぞ」

「「えっ?」」


 きょとんとする二人の方を見ずに、俺が言った。


「スキルメモリを発動させたまま、魔法エネルギーを武器に上乗せして投擲するのは至難の業だ。深月のマナ総量の計算と集中力があって、初めて使いこなせるんだよ」


 俺の言う通り、深月が今使っている武器は、相当の習熟度がないと扱えない。

 カップルもそれを察したのか、なるほど、とだけつぶやいて試合に集中し始めた。


「威力、スキル付与機能、ともに問題なし。テストは終わらせたから、早めに仕留めるね」


 そして売り文句を思いついたらしい深月は、もう容赦しない。

 手裏剣を投げつけ、戻ってきた手裏剣をもう一度投げつける。

 そのたびにブラッドグリフォンは切り刻まれ、あっという間に肉塊へと変わった。


『ガアウゥッ……』


 ブラッドグリフォンがダンジョンの床下に回収されると、またも大歓声が巻き起こる。


“すっげえええええ”

“やべえ、あれ超欲しい!”

“ソーマ新商品はよおおおおお”


 そんなコメントを見て気分が上がったのか、深月は珍しくモニターに向かってピースサインを作って、ぼそりと呟いた。


「今年中に発売予定……皆、楽しみにしてて」


 おいおい、さっきまでずっと考え込んでたのに出てきたのがそれかい。

 軽くツッコもうとする前に、実況音声がダンジョン中に鳴り響いた。


『蒼馬深月、ブラッドグリフォン討伐でゲームクリア! この時点でゲームは終了――クリアした冒険者は蒼馬深月と、ドイツからの刺客、リーゼロッテ・アイレンベルクやぁーっ!』

「「うおおおおおーっ!」」


 そして、今日一番の観客の声がとどろいた。

 俺も思わず、席を立って拍手した。


 ――いやあ、やっぱりふたりともカッコいいな、なんて思いながら。

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