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魔王を倒すためのチートスキルを貰ったけど、妹が可愛すぎてそれどころではありません
魔王を倒すためのチートスキルを貰ったけど、妹が可愛すぎてそれどころではありません
もかの
異世界ファンタジースローライフ
2025年05月19日
公開日
1.2万字
連載中
ハーライツ王国シュラインド侯爵家、その長男である『サエル・シュラインド』に俺は転生した。 しかし女神によれば、この世界はあと数年で魔王によって滅ぼされてしまうらしい。 それを阻止すべく、女神は俺に『チートスキル』を与えてくれた。 少々強引な転生であったが仕方ない。俺が生き残るためにも、必ずや魔王を倒してみせ── 「おにーちゃん!」 ……必ずや、妹に男を近づけさせるものが!!

第1話 かわいい妹が最優先です

 気がつくと、ここは知らない真っ白な部屋。

 記憶があるのは、とあるラノベで俺が好きな妹キャラのグッズを買いに行ったその道中、通り魔に刺されたところまでだ。


 これは異世界転生というやつか?


「ご明察。さすが日本人ね。あの国はみんな勘が鋭いわ」


 目の前に光が集まり、その中から純白のドレスに身を包んだ美しい女性が出てきた。

 腰まであるストレートの髪の毛は少し紫がかっている。背中から生える小さな羽根が人間でないことを物語っている。


「考えていることを読まれるのも定番ですね。プライバシーの侵害だ」

「面白いこと言うわね。でも、ここじゃ神の私が憲法よ」

「三権分立の敗北」

「そんな冗談はいいのよ。あなたには世界に行ってもらうわ。日本のラノベが好きみたいだから、剣と魔法の世界にしてあげる」


 女神が淡々と話を進める。


「その世界、魔王がちょっと強すぎてね。人類が滅びるまであと5かもしれないの」


 女神が淡々と話を進め……え?


「5年? 短すぎません?」

「そうなの。短すぎるの。だから君には向こうの世界に行く前に1つだけ『チートスキル』を上げる。世界の均衡を崩さないくらいのね」


 ラノベのような『異世界転生特典』や『死んじゃって可哀想だから』みたいなやつではなく、5年で世界を救うためのものらしい。


 そんなことを考えていると、俺の身体が突如として光りだす。


「っと、もう時間みたい。本当はここを経由せずに異世界に行くんだけど、無理やり呼び寄せてたんだよね」

「ちょ……まだほとんど情報ないんですけど!?」

「うーん……頑張って! 混乱しないように転生先だけ! ハーライツ王国シュラインド侯爵家の長男──サエル・シュラインド。地球にいた頃の君とほとんど同じ性格の子だから口調とか無理に変えなくても大丈夫だからね」


 その女神の言葉を最後に、俺の視界は真っ白に覆われた。



 ◇ ◆ ◇



「知らない天井だ」


 背中にはふかふかのベッドの感触がある。明らかに一般人のソレじゃない。

 女神が言っていた『侯爵家』というのは、このベッドだけで証明された。


「ッ!」


 瞬間、知らない記憶が流れ込んでくる。

 そしてすぐに分かる。この身体──『サエル・シュラインド』の記憶であると。


 サエル・シュラインド、15歳。

 シュラインド侯爵家の長男として、西暦3000年ちょうどにこの世に生を受けた。

 父さん譲りの銀髪に整った顔立ちは、性別問わず誰が見ても口を揃えて「イケメン」と言うだろう。

 突飛した才能があるわけではないが、地道な努力を重ねるのが好きで、剣と魔法その両方でかなりの腕前を有している。


「っふぅ」


 この世界のこと。わが国ハーライツ王国のこと。シュラインド侯爵家、そして家族のこと。『サエル・シュラインド』が16年かけて学んできた記憶が、俺の脳に叩き込まれた。

 そして、『サエル・シュラインド』は家族には隠していたが、実は余命が近づいていたことも知った。


 どうやら『サエル・シュラインド』は、事前に女神と接触していたらしい。俺に身体を譲ることは、その時に決定していたようだ。


「──あら、起きたのね。体調は大丈夫? 頭痛がするの?」


 ベッドから身体を起こし、『サエル・シュラインド』の記憶を脳が処理していると、母親が部屋の扉をコンコンとノックし、開けた。どうやら俺は病気で寝込んでいたことになっているらしい。


 俺の母親──オリビア・シュラインド、40歳。

 ブロンドの巻き髪ロングに童顔を兼ね備えた母さんは、とても四十路よそじとは思えない若さだ。

 財政などについての知識は天才と呼べるほどだが、その反面、ポンコツ・うっかりさんという属性を持っている。


「うん。俺はもう大丈夫だよ。頭痛もそこまでないし」

「あ、ほんと? よかった……でも今日まではしっかりと休みなさいよ。あ、そうだ。おかゆ机に置いておくから食べれるときに食べるのよ」

「ん。ありがと」


 それだけ残すと、母さんは俺を安心させるようにニコッと微笑んで部屋を出ていった。『サエル・シュラインド』の記憶にあった通り、すごくいい母親だ。

 ……部屋の外からどーんと尻もちをつく音が聞こえてくるのも、記憶通りだな。


 すると、ドタドタと廊下を駆け抜けてくる足音が響き始めた。シュラインド家って、侯爵家なんだよな……? こんなに落ち着きのない人たちで溢れてていいのか……?


 足音がだんだんと近づいてきて、扉がドンッと開け放たれる。


「お兄ちゃん! もう治ったの!?」


 元気いっぱいの声が俺の部屋に響く。


 俺の妹──ルナ・シュラインド、12歳。

 母さん譲りであるブロンドの髪をふわふわのツインテールに束ねていて、なんとも愛くるしい。

 白のワンピースともよく似合っている。


「こら、ルナ。廊下は走ったらいけないだろ?」

「うー……で、でも、元気になったお兄ちゃんにはやく会いたかったからっ!」


 ッスゥゥゥ…………かわいい。


「……しょうがないなぁ。次は気をつけるんだぞ」

「はぁい!」


 するとルナは、てってってーと俺のベッドまで駆け寄り、ジャンプして勢いよく飛び乗ってきた。反動でベッドが縦に揺れる。

 そんなことお構いなしに、ルナは俺の隣に寝転がる。


「ママに近づいちゃダメって言われて2日も会えなくて寂しかったから、ちょっとだけ横で寝てい?」

「まだ治ったわけじゃないからだめ」

「おねがいっ」

「……ちょっとだけだぞ」

「やったぁ! えへっ!」


 かわいさに免じて添い寝の許可を出したが、ルナはそれだけに留まらず、俺にぎゅっと抱きついてきた。


 あぁ……あぁ…………


 女神ごめん。もらったチートスキルだけど、ルナを守るために使うわ。

 かわいい妹と世界の命運、どっちが大切だと思ってるんだ。

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