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第50話 過剰戦力による封印の儀

夜、同じ小さいベッドに入り向き合いながら俺たちはこの3年の事や、これからの事なんかを話し合った。


カウンターでお湯をもらい、体を拭こうと俺が脱いだら真っ赤になってフリーズするし、俺が床で寝ようとしたら、わたしが床で!とか言ってごたごたしたり、といろいろあったが。


なんとか「俺たちは幼馴染だからこれが普通だ。嫌ではないんだろ?」と言ったら顔を赤く染め瞳を潤ませながらもこくりと頷き、何とか落ち着いた形だ。


「なあ茜、そろそろ『光喜お兄ちゃん』はやめにしないか?」

「っ!?…だめ、かなあ…」


みるみるしょんぼりする。

悪いことをしているかのように俺の胸に鈍い痛みが走る。


「いや、日本で17歳だったんだろ。あれから3年たったんだ。成人だぞ?光喜さんとかで良くないか?俺だってもう、茜ちゃんとは呼ばないし。まあ今更だけどな」


「……うん。分かった…光喜さん」

「ああその、別に嫌なわけじゃないんだ。むしろ嬉しかったしな」


茜のさらりとした髪をなでてやる。

目を見張り、頬がうっすら上気する。


「でもなアルテに怒られた。『いつまでも子ども扱いしないでください』ってな。そんなんだから茜がいつまでも『子供でいようと無理をしてる』んじゃないかって。とても心配していたんだよ」


「っ!?…そっか。そうだよね。もう20歳なんだ。大人…だね…」


ごろりと寝返りを打つように茜は背中を向けて話し始めた。


「わたしね、怖かったんだ。日本にいた時は何もできなくて、ずっとパパを困らせて悲しませて、…死んじゃったグスッ…うっ…ひっく…ぐす……」


「光喜さんと会ってとてもうれしくて、グスッ…みんな優しくて…でも、私が子供だから、守ってくれていると…グスッ…おもって……」


俺は静かに話を聞いて、茜がしゃべるまで黙っていた。

窓の外から酔っ払った冒険者の騒ぐ声が聞こえる。


泣いていた茜の震えが止まった。

落ち着いたみたいだ。


「私もアルテお姉…アルテミリスさんに言われたんだ。いつか一人で出ていくときが来るから、強くなりなさいって。でもいつでも会いに来て良いんですよ。ここはあなたの家なのですからって…ひっく…うあ…ぐすっ……うああ…」


揺り返す感情の波が、自覚した悲しみが、まるで吸い込まれるように茜の漆黒の真核に吸い込まれていく。

そしてはかなく揺らいでいた白銀が力を増した。


「もう遅い。疲れただろ、ゆっくりお休み」


そう言って茜の頭にやさしくキスを落とし、上を向いて俺は目を閉じた。

茜は安心したようにやがて穏やかな寝息をたてはじめた。


※※※※※


(新星歴4817年4月20日)


ギルガンギルの会議室で俺は皆に向かい提案した。


「エンチャート大森林のほぼ中央に俺が設置していない小さな祠があった。欠片の反応もないしゴブリンがいただけだが封印したい。約束通り皆の力を借りたい」


茜と二人で宿を出てから2時間ほどでたどり着いて確認した。

茜がほとんど人間をやめるレベルになっていて驚いたものだ。


…マジで人間最強じゃね?


おもむろにエリスラーナがつぶやく。


「茜、変わりすぎ。なんか寂しいけど嬉しい。ん、がんばった」

「ありがとう。エリスラーナさん」

「エリスちゃん、がいい。だめ?」

「っ!わかった。エリスちゃん。これからもよろしくね」


ほんわかとした空気が漂い、とても癒されてしまった。

アグアニードなんか号泣してるし。


「ゴホン、あーすまない。話を進めるぞ。誰が付いて来てくれるんだ?俺たちがいない間に決めたのだろう。準備ができたら飛ぶからな」


すっと5柱が手を挙げた。

出ることが許されないアースノートを除いて。


「ノアーナ様の封印を直に見る必要があります。準備が間に合わず今回はアースノートが出られませんが、次回以降は全員で参ります」


アルテミリスはそういうと、茜を突然優しく抱きしめた。


「茜、がんばりましたね。あなたは私にとっての大切な娘とおなじです。つらい時は遠慮しないで甘えていいのですよ。いつでも私はあなたの味方です。愛していますよ茜」


今まで見たことのない蕩けるような優しい表情でアルテミリスは微笑んだ。

茜はたまらず号泣するのだった。

皆の優しい笑顔に包まれて。

茜の真核が今までで一番輝きを放っていた。


※※※※※


エンチャート大森林のほぼ中央、古ぼけた雑な作りで崩れそうな祠の前で、この世界最強が、極帝の魔王に5柱の神々、そしておそらく人類最強の茜の7人が集まっていた。


……この一帯魔力の圧だけで吹き飛ぶんじゃないか?

保護結界も展開しておこう。


「よし、まずはここ一帯に保護結界を展開するぞ。俺たちの魔力が集まれば物理的に吹き飛ぶ危険があるからな。ああ、これは魔力遮断結界だから、そうだな。アグ、お前の研鑽の成果を見てみたい。頼めるか?半刻持続、絶対遮断だ。…習得しているよな?」


はいはーいと手を挙げながら、なぜかテンション爆上がりで瞳を輝かせ、アグアニードが前に出てきた。


「うわー。メチャクチャ嬉しー。もちろん覚えたよ!よーしじゃあ…そりゃっ!!」


刹那音が消えるのではと感じるほどにアグアニードに紅く煌めく魔力が集中し、瞬間弾けて30mくらいの赤みを帯びたやや透明なドームが発現し、周囲を囲んだ。

分厚く頑丈なそれは確かに以前のアグアニードでは展開できないほどの高みにあった。


「よし、見直したぞアグ。見事な結界だ…さすがは俺の自慢の部下だ。俺は嬉しい」


アグアニードはあまりの嬉しさに唇を強く嚙み、涙をこらえるようにうつむいた。


おもむろに俺は摂理の理を胸に刻み詠唱を始める。


「遠き知の盟約・ことごとく蹂躙する極灼の涙・忘却の絆尊ぶ声聞・いと高きマルガイカレイズ極原の紅き秘宝の鼓動・漆黒の鼓動閃光を伴う白き気高き運命の魔神龍の嘶き…」


「皆、俺に魔力を合わせろ。色は任せる。最大で行くぞ!『聖言発動』」


刹那吹き上がる皆の魔力と合わさる極大の漆黒の魔力が祠を中心に複雑な幾何学文字を幾重にも描きながらまるで地面から生えるように顕現する。


余りの魔力の圧に耐え切れず、ノアーナの両腕の皮膚が裂け、目と鼻から血が流れ出すが構わずそこへ想いを乗せる


「っ!!!!おおおおっ…境界絶世獄聖魔陣立体封印!!!!!!」


世界から音と光が消えた。


気が付けば皆生まれたままの姿であり得ない安心感に包まれ、あふれ出る涙を堪えられずにいた。


長いような短いような、不思議な感覚はやがて元々無かったかの様に存在を霧散させていった。


「…ふうっ…皆ありがとう。封印完了だ」


極帝の魔王、ノアーナ・イル・グランギアドールが微笑を浮かべ立っていた。


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