「殲滅完了ですわ♡」
俺の前にはどや顔のグルグル伊達メガネをかけた緑色の着ぐるみに包まれた鼻息の荒い妙なものが両手を突き出し、抱っこを強要しながら立っていた。
ブチギレた時に取れたのか取ったのか知らないが、いつも縛ってあるリボンから解放された、キラキラ輝く美しいエメラルドのような髪をなびかせて。
て、なにこの絵面。
「よくやった?…ア、アート。お疲れさまだな」
「「「「「「なんで疑問形?」」」」」」
皆が突っ込む。
息ぴったりだな。
「ノアーナ様♡頑張りすぎて、疲れちゃいましたですわ♡…抱っこ♡」
俺は抱っこしてやった。
意味はないがぐるぐる眼鏡を取り外して。
間近で見る素顔のアースノートは超絶美少女だ。
儀式のときの表情が脳裏に浮かび、思わず顔に熱が集まる。
アースノートが抱っこされながらも俺の耳にそっと呟いた。
「……ノアーナ様…好き♡」
不意打ちとかっ!?……まあ、うん。
めっちゃ可愛い。
※※※※※
確認のため皆で蹂躙、いや戦闘のあった場所を訪れた。
モノがあったであろう場所には深さが見えないくらいの大穴が直径30m位形成されており、超高温でガラスみたいになっている焼け野原が広がっていた。
「…………はあ…」
「…やりすぎ……はあ」
「すごい!見たいアースノート。出して」
思わずダラスリニアとエリスラーナがつぶやく。
「反応はもちろんありませんわ♡アフターフォローもぬかりありませんの」
どうやらあの一瞬で、数百体はいたであろうアンデットの軍団を殲滅し、周囲に反応が残っているか確認したらしい。
ていうか本当に殲滅しないと気が収まらなかったらしい。
殲滅した後に、ご丁寧にも聖属性の結界兵器を何度か使用して、さらには何度も荒廃の権能を使い徹底的に後始末をしたようだ。
俺は大きく息をつき、いまだ抱っこされているアースノートの髪をなでた。
嬉しそうに笑うアースノートを見て、俺は頼れる仲間に恵まれたと笑みを浮かべた。
※※※※※
キャルルートルン正教会から戻り、しばらく休憩を挿み、再び会議を行った。
「お前たち、眷族はどうなっているんだ?…ああすまない。俺は把握していないんだ。今まで優秀なお前らだけで問題なかったからな。でも今回は『欠片事件』の時と違って気が付いたら手遅れになる案件になりそうだ」
「だから手がいる。世界を同時になるべく観察してもらいたいんだ。皆の眷属の力を借りたい」
俺が与えた能力の中に、眷族創造というものがある。
6柱は普段から一緒にいるし、何なら茜は馴染み過ぎてるし、基礎スペックではもう殆ど差がないくらい強い。
だから感じないが実際には恐れ多い存在だ。
普通に通常の人間が接触しようものなら会話はおろか近づくことすらできない。
なので彼ら彼女らが認めたものに対し眷族創造を行いある程度普通に接することのできる人員確保のための能力だ。
生み出すわけではない。
いくつか特権のようなものもあるのだが、まあ神々が繋がれるので間違いは起こらない。念話もできるようにしてある。
「私のところは光教の布教のために、2000名ほど揃えております」
「あーオイラのところは300人くらいかなー。弱い奴いらないしー」
「……魔国…全員…20万人」
ぎょっとした顔でアグアニードがダラスリニアに目を向ける。
「っ!ダーちゃん?多くない?…えー…」
「コホン。わたくしのところは少ないですわね。80名くらいでしょうか」
モンスレアナが言う。
「ん、150人。人魚族」
「あ、あーしちょっと用事をーおもいだしてー…ですわ…」
キョドるアースノート。
実は人が怖くてボッチ特性。
まあね。
「いや、皆ありがとう。アートも別に怒るわけじゃないんだ。お前はいろいろ世話をかけている。気にするな…でも土神教あるよな?どうなってるんだ?」
「……っない」
「えっ?」
「ないの!なんならあーし、国も持ってませんですわ。時間ないですもの」
「えっでも……土神教、は?…どういう」
「身代わり愛ドール4号のレンレンちゃんが代わりに神やってますわ」
「あーそういう…」
なんか微妙な空気が流れた。
うん、突っ込んじゃいけないやつだな。
「コホン。あーえっと、じゃあとりあえずチームを作るか」
「………どーせ……あーしは…………」
拗ねた。
そっと茜がアースノートを抱きしめていた。
ぬいぐるみに抱き着いているようにしか見えないが……
※※※※※
土の神アースノートの逆鱗に触れ壊滅したアンデット軍団の中に、偶然紛れてしまった野生のスライムがいた。
この世界のスライムはほぼ無害で存在値が低く、索敵などの検査・調査系の魔力ですら検知されない。
激しい爆風で飛ばされたスライムは、アンデットモンスターのバラバラになった一部を偶然にも吸収し、奇跡的にモレイスト地下大宮殿にたどり着いてしまった。
モレイスト地下大宮殿は、当然一番危険が高いとノアーナはじめ神々が交代で定期的に訪れる場所だ。
宮殿内部は魔法を弾く古代兵器と生物に感応するセンサーが幾重にも張り巡らされているため、調査も容易ではない。
そんな宮殿に展開させている結界は、魔力と存在値に反応する。
禁忌地とはいえ星の住民や土着の者たちにとって、この場所は意味がある。
祭りごとや神聖な儀式をすることがあるためだ。
魔力や存在値の低い彼らが入れるように調整しているため地下2階までは問題なく入ることができるようにしてある。
存在値の低いスライムは問題なく結界をすり抜け、宮殿に進んだ。
かつて魔王の戯れにより設置された宮殿は、基本古代兵器しか配置されていない。
同じ原理で運用されているため存在値の低いスライムはフリーパスで最深部へとたどり着き、そして強敵を生み出そうといらん事を考えていた過去のノアーナが作った祭壇で運命の出会いを果たしてしまう。
『欠片事件』の時に飛ばされ、発生した直後にキャルルートルン正教会の地下で行われていた悍ましい儀式により、無理やり魔力を吸い取られただの鉱石に存在を落としていたもう一人のノアーナと。
この運命のいたずらが、後に起こるノアーナが逃げなければならない悲劇へとつながるのだ。
ゆっくりと、ゆっくりと………
まるで大湖の水面のように沸き立つことのない純粋な静かな悪意をはぐくみながら。