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第94話 勇者喪失の危機

結果付与はできなかった。

どうしても漆黒が琥珀を弾いてしまうからだ。


俺は一人クリスタルの間で悩んでいた。

突然クリスタルが揺らぎ始め、瞬いた。


「光喜さん、大丈夫?」


俺は飛び上がるほど驚いた。

ここは禁忌地なんて目じゃない。

俺以外は入れないはずだ。


「あ、茜?どうして……っ!?体は大丈夫か?!」


俺は慌てて茜を抱きしめて魔力で包み込んだ。

茜の存在が削られていた。


「あれ?……力が………あ……」

「くっ、転移!!!」


俺は茜が来たときに確かにクリスタルが揺らいだのを見たんだ……


※※※※※


「ん………あれ?……私………」

「茜っ!!??大丈夫か!!?」


わたしが目を覚ますと、光喜さんが苦しいくらいに抱きしめてくれた。

今まで何度も抱きしめられているはずなのに、なぜだか涙があふれてきた。


「グスッ…ごめ…んな……さい……」

「よかった……茜……良かった……」


光喜さん?泣いて………


「怖かった。お前が消えるんじゃないかって………こんなに怖かったのは初めてだ」


そして今度は優しく抱きしめられて、優しいキスをしてくれたんだ。

ずっと、ずっと…………


※※※※※


それから5日くらい、わたしは光喜さんに抱きしめ続けられた。

こんなこと言ったら怒られそうだけど………


嬉しかった。


※※※※※


茜がクリスタルルームで倒れて6日が経過した。


やっと存在が安定して、俺の魔力で守らなくても問題ない状態になった。

あの時、茜の存在自体が急激にクリスタルに吸収され始めたんだ。

存在が急激に消滅していた。


6日ぶりに俺は会議室へといった。


「すまないみんな。茜はもう大丈夫だ。消えることはない」


茜が倒れて存在が消耗したことは全員が共有していたので、取り敢えず落ち着いたことに、全員がほっとした。


その情報を共有したことで、皆が安堵の涙を流した。


アルテミリスが膝から崩れ落ちて、もう枯れるんじゃないかというくらいに流した涙を、さらに零し始めた。


他の皆も目が真っ赤だ。


「ノアーナ様、ノアーナ様もお休みください。真核がボロボロです」


モンスレアナが赤く泣きはらした瞳で、俺にやさしく告げた。

ネルがそっと俺の腕をとってくれる。


「ああ、そうさせてもらおう。アート、自分を責めないでくれ。これは俺のミスだ。茜に言うのを忘れていたのは俺の責任だ」


コアのあるクリスタルルームは基本俺しか入れない。

神々は弾かれてしまう。


しかし茜は………転生したときから俺と同じ色を持っていた。

つまり来れてしまったんだ。


憔悴しきってやつれてしまったアースノートに告げた。


「……ぐすっ………あーしが……コアのことを……茜に…ごめんなさい………」


俺はネルに付き添われてアースノートのもとへ行った。

アースノートを抱きしめてやる。

華奢な体が震えていた。


「アート、本当だ。お前に責任は一切ないんだ。少し休め」

「………ぐすっ……」


アースノートは自室へ飛んだ。


「アルテ、お前もだ……茜は俺の部屋で寝ている。見てからでもいいから休め」

「…はい………わかりました」


アルテミリスは転移していった。


「ダニー、エリス、お前たちもだ。休め」


泣きながら俯いている二人を優しく抱きしめてから転移させた。


「アグ、すまん。お前が頼りだ。皆を守ってくれ」

「わかったー。でもノアーナ様もちゃんと休んでよー」


「ああ、ありがとう。ネル、頼めるか?」

「……グスッ……はい……」


俺はネルに連れられて、グースワースへ飛んだ。

茜が回復し、ギルガンギルが通常に戻るまで1か月を必要とした。


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