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第121話 大精霊龍の日常

(新星歴4818年1月5日)


茜の強さに感銘を受けた風の大精霊龍セリレ・リレリアルノは、魔王の地域制限撤廃を受けて、星中をさまよった挙句、結局かつての住処であるガルンシア島に戻ってきていた。


セリレは強い。


存在値もモレイスト地下大宮殿の戦いで多少の経験値を稼げ44000を超えていた。

そしてもっと強さを求めるも、彼女以上に強いものがほとんどおらずに、少し、いやかなり暇を持て余していた。


この前の姿が気に入ったらしく、今も妙齢の女性の姿で飛び回っているが。


「つまらぬ。暇じゃ…………仕方ない、少し面倒だが火でもからかいに行くか」


そしてガルンシア島の常にマグマがたぎるドワイスト山へと向かった。


※※※※※


かつて魔王は意味もなく4柱の神と4体の大精霊を創造していた。


火神ドルドーラ

風神モンスレアナ

土神アースノート

水神エアナルード


火の大精霊フレアルイスト

風の大精霊セリレ

土の大精霊モルドレイク

水の大精霊ミューズスフィア


そして4800年前、それをほとんど無視して今の6柱を管理者として創造した。

まあ神はそのまま存在を上げる予定だったらしいが。


結論として強きものをガルンシア島に閉じ込めた。


あの時大きく反対した火神と水神、土の大精霊は。


「ごめん、もういいや。お前ら暴れすぎ。疲れただろ?じゃあな」


そんな何も考えていなかった創造主である魔王ノアーナによって、記憶を消去され、ただの精霊へと存在を落とされたのだ。


確かにアイツらは何も考えずに暴れまわっていた。


だがあの態度はないだろう。

なんだかんだ数万年は一緒にいたというのに。

今思い出しても腹が立つ。


セリレもさんざん愚痴を言った。


「じゃあお前には特別に名をやるから我慢しろ。あっ、そうだ龍なんて格好いいからな。精霊龍にしてやるよ」


そう言われて、思わず頷いたのが運の尽き、4800年も閉じ込められる羽目になった。


確かに名をつけられ大精霊から大精霊龍になったおかげで存在値は上がったし、正直頭もよくなった。

本当は感謝もしていたが、やはり気にくわないのは仕方がないことだと思う。


結局残ったのは風の神モンスレアナと土の神アースノート、火の大精霊フレアルイストと水の大精霊ミューズスフィアと自分だけだった。


まあミューズスフィアはやたら強いが怠け者だったから、今も役目がいないとこをいいことにずっとどこかの海の底で眠ったまんまだ。


もしかしたらあの魔王の事だ。

忘れているに違いない。


結局消去法で遊べるのは火の大精霊フレアルイストしかいないのだった。


※※※※※


ドワイスト山はガルンシア島の最東端にあり、いつも溶岩が噴き出し、普通の生物は殆どいない。

そしてそこの主は、意外にも話好きだ。


寂しい環境にいるせいか、つかまれば数刻は解放されないためいつもはなるべく避けていた。


「よー、セリレじゃんか。珍しいな。僕と話がしたいんだな?ん?ん?んんー?」

「まあ僕と話ができるなんてセリレはとてもラッキーだよ」

「うん。そう思うでしょ。それでさー最近思ったんだよねーなんていうか?ほら、僕たちの存在理由ってやつ?ははは」

「まああの魔王が全く考えてないからさー、僕が代わりに考えたわけよ。ん?ねえ聞いてるの?」


顔見た瞬間にものすごく後悔したセリレだったが、わざわざ足を運んだ。

まあ少しくらい……


「それでさ―この前珍しくアグアニードが来たんだよーうん。びっくりしたよねー。それで前より強くなっててさー」

「まあ僕よりは弱いんだけどねーそれでさー…えっと何の話だっけ?ああそうそう、僕は強いから偉いって話だよね。そう思うでしょ?」


……やっぱり帰ろうかの。


「この前なんか変な奴が暴れだしてさー、ちょっと火をぶつけたら溶けてやんの。はあー強すぎるって罪だよねー」

「ねえ聞いてる?それでさ、えっと、ああそうそう最近寒いじゃん、まあここは関係ないけどねーははっ、マジ受ける。ねえここ笑うところだよ!」

「もー相変わらずセリレは乗り悪いよねー」


我はどうすればいいのじゃ?


「どうしたのセリレ落ち込んじゃって。ああそうか、つまらないよねこんな話じゃ。そうだとっておきの話があるんだけど聞く?うん。聞くよネそれでさー」


「わあああああああああああああああああ!!!!」


我は思わず大声を上げた。

キョトンとする火の大精霊フレアルイスト。


「もういいかの?」

「……なんだよー」

「お前しゃべり過ぎっていつも言われるじゃろうが」

「……たまになー」


どうやら少し落ち着いてくれたようじゃ。


コイツは見た目10歳くらいの男の子の格好をしておる。

こんなでも存在値は40000を超えておるのじゃ。


まあ我の方が強いがの。


「のうフレアよ。少しばかり稽古といかぬか?」

「えー面倒くさいー。てかセリレ強くなってるじゃン。なんで―」

「チッとばかし魔王に呼ばれての」

「ふーん。まあいいや暇だし」


そして始まる稽古という大災害。


まあ普通に考えたら火と風だ。

たちまちあたりには大火災が発生した。


慌てて飛んできたラスタルムに怒られ、ついでに付いて来たエリスラーナが真龍化して火災を全て吹き飛ばし、余波で我もフレアルイストもひどいダメージを受け、今はちんまいエリスラーナに説教を受ける羽目になったのじゃ。


「ん。お前たち、暴れすぎ。不敬」


我は何しに来たのじゃろうな。

ため息しかでぬわ。


フレアルイストと並んで正座をし、意外とちゃんと反省するセリレであった。

そんな様子を見てエリスラーナがつぶやく。


「暇なら、うち、くればいい。茜もモンスレアナもいる」

「ん。私も修行する。一緒に」


セリレはすぐに目をキラキラさせてその提案に乗った。

こうして大精霊龍セリレの一日は過ぎていくのであった。



ああ、フレアルイストはラスタルムと後始末をするらしいがの。


男たちはいつでも女に振り回される運命なのかもしれない。


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