(新星歴4818年7月5日)
このアナゴデーラ大陸にも暑い夏が訪れた。
保護した7人はグースワースの皆と大分打ち解けてくれていた。
カンジーロウ以外の6人にそれぞれ名前も与えた。
彼らに寿命撤廃を施したせいか皆が成長し、子供だった彼女らはそれぞれ望む年齢で固定されたようだ。
サキュバス族のノニイ。17歳。
鼠獣人のエルマ。19歳。
エルフ族のサラナ。18歳。
大魔族のミュールス。18歳。
エルフとヒューマンのハーフ、カリン。21歳。
天使族と魔族のハーフの、ルイーナ。17歳。
そして狐獣人のカンジーロウ。26歳。
決して俺の趣味でないことは一応伝えておく。
彼女たちが望んだ結果だ。
皆の協力とアースノートの研究により観察の効率が上がった俺たちの星。
いくつかの事件はあったものの大きな混乱もなかった。
久しぶりに平穏な日々を過ごしていた。
グースワースはギルガンギルの塔ほどではないが、この星の科学力を大きく超越した各種機能がちりばめられている。
暑い夏だが拠点内はほぼ同じ気温を保っており、過ごしやすい環境といえるだろう。
あれから新たな仲間も増えた。
一応肩書及び名前を。
総責任者・極帝の魔王
ノアーナ・イル・グランギアドール
存在値 25000
ナハムザートの部下のドラゴニュート隊は、全部で10名になっていた。
隊長 ナハムザート 存在値 1536
第一小隊長 アズガイヤ 存在値 790
副隊長 ブラッド 存在値 569
隊員 ドロス 存在値 631
隊員 イングリール 存在値 423
隊員 ガロドナ 存在値 470
第二小隊長 イレーザ 存在値 727
副隊長 ルガロ 存在値 806
隊員 グスタード 存在値 711
隊員 ダグラス 存在値 369
皆男性だ。
女性もいるらしいがあまり見たことがない。
流石歴戦の種族。
この世界の強者と言われる300を大きく超えている。
ムク率いる諜報及び通常対応部隊、いわゆる町の見回り部隊は7名。
執事長・総隊長
ムク・ラサッタ 存在値 1103
諜報部隊長 ウルリラ 存在値 633
情報部隊長 ヒューネレイ 存在値 563
隊員 ラズ・ロック 存在値 480
隊員 マラライナ 存在値 120
隊員 ニル・ドラーナ 存在値 301
隊員 サーズルイ 存在値 177
ムクとウルリラがナグラシア王国の森で助けてきた4人が新たに加わった。
ラズ・ロックとマラライナ、ニル・ドラーナは女性で、サーズルイは男性というか少年。
4人はパーティーを組んでいた冒険者だったそうだ。
改めてみるとやはりムクの強さが飛び抜けている。
料理メイド部隊
メイド長・近衛騎士団長・管理副責任者
ネリファルース・ツワッド 存在値 2290
料理長 リナーリア 存在値 101
メイド副長 ルナ 存在値 97
お母さん カナリア 存在値 102
料理補助 カリン 存在値 389
料理補助 ミュールス 存在値 1227
料理補助 ルイーナ 存在値 213
メイド ノニイ 存在値 94
メイド エルマ 存在値 158
メイド サラナ 存在値 228
助けた子供たちも「仕事ください」と言ってきたので与えた。
俺としては回復に専念してほしいと思っていたが「働いている方が気がまぎれる」と言われ組み込んでみた。
ネルは飛び抜けて強いがミュールスの存在値には驚かされた。
よく見たら彼女、大魔族だった。
突撃部隊長 カンジーロウ 存在値 1138
副隊長 ゴドロナ 存在値 722
隊員 アカツキ 存在値 418
隊員 ミーア・ルンド 存在値 280
カンジーロウは強い。
これでまだ真の力使えないんだから将来が楽しみだ。
まあ、伝説の種族だしね。
最近加わったゴドロナは、何かの武術の伝承者だったらしい。
ヒューマンで700越えは珍しい。
覚醒するかもな。
アカツキとミーア・ルンドは、ゴドロナの仲間らしい。
以前ゴドロナに助けられ一緒に行動していたと、死にかけていた3人を救出したカンジーロウが俺に教えてくれた。
総勢32名。
俺の愛する仲間たちだ。
※※※※※
俺たちが助けた7人のうちほぼ問題がなくなったのはカンジーロウだけだ。
他の6人は皆といるときや仕事をしているときはだいぶ良くなってきたが、例えば一人でいるときなど泣いていることが多い。
時間をかけると俺は言った。
慌てて無理をしてほしくない。
でも笑顔が増えてきているのは事実だ。
これからもゆっくりでいいから彼女たちの本当に笑う姿を俺は楽しみにしているんだ。
そんな物思いにふけっていたら、ドアをノックする音がした。
「はい、どうぞ。開いているよ」
「し、失礼します」
珍しい客人だ。
ノニイとエルマが二人でやってきた。
この二人は当初から結構一緒にいた。
仲が良いようだ。
「いらっしゃい。どうした?俺に用かな?」
俺は笑顔で問いかけた。
するとノニイが顔を赤らめ、恐る恐る俺に問いかけてきた。
「……ノアーナ様……怒らない?」
「ん?どうした?何か不都合があるなら聞くぞ?」
「…えっと……その……」
モジモジし始める。
「???」
すると隣のエルマがノニイの背中を優しく押した。
ノニイが一歩前に来るような形になった。
「あっ」
思わずよろけたので俺は慌てて受け止めた。
抱きしめる形になり、ノニイは顔を赤くさせる。
俺は彼女の最初を思い出した。
そして優しく問いかける。
「大丈夫だよノニイ。ここにはお前たちをいじめる者はいないんだ。安心してほしい」
ノニイの目に涙が浮かぶ。
心なしか体も震えている。
俺はノニイを優しく立たせてあげた。
「…ご、ごめん……なさい……」
顔を赤くしたり青くしたり忙しいノニイだが、なぜかエルマは優しい顔でノニイを見ていた。
俺はエルマに問いかけた。
「エルマ。今日はどうしたんだ?もし話がしたいなら座るといい」
エルマは軽く頭を振り、俺に視線を向け口を開く。
「ノアーナ様。ノニイが……試したいことがあるって……」
そして改めてノニイを見る。
ノニイはまた顔を赤くする。
「?試したいこと?いいぞ。何でも言ってごらん。できることなら協力する」
顔を赤くしていたノニイだが、急に決意を込めた表情が浮かんだ。
そして俺に抱き着いて来た。
「っ!?……ノニイ?」
「……やっぱり」
俺は抱き着かれるままでいた。
俺から抱きしめることはしない。
ノニイはとても可愛いが、いくらクズの俺でもさすがにそういう気持ちにはなれない。
この子たちは地獄を見ている。
「ノアーナ様……私……」
「……なんでも、言ってごらん」
「私の種族特性……ご存じですよね」
思わず絶句してしまった。
彼女はそれで苦しめられていたはずだ。
「でも……多分……知らないと思う」
「……えっ?」
ノニイは俺から離れ、俺を真直ぐに見つめた。
そして教えてくれたんだ。
サキュバスの本当の種族特性の意味を。
サキュバス族の本当の催淫の意味は、愛するものを、仲間を守るための自己犠牲のものだった。
そして本来は、生涯で数度しか使えない。
彼女はそして、確かめた。
俺が信頼に値するかを。
能力を使わないで触れると、わかるようだ。
「ありがとうございます。ノアーナ様……大好きです♡」
どうやら俺は合格らしい。
後で聞いたのだが、彼女たちはおびえていた。
どうして何の得にもならないことを俺たちがするのか分からなくて怖かったそうだ。
無償の愛など、彼女たちはとうに忘れさせられていた。
だから、きっとまた酷い事をされるんじゃないかと。
ずっと怯えていたのだった。
だけどいつまで経っても酷い事をしない俺たちに心を開きたいが、もしまた……
そして心を決め今日確かめに来た。
『言葉はいくらでも良い事が言える。でも心は本性を映す』
彼女の一族に伝えられていた教え。
種族特性が絡む『こういうこと』は多くの種族で信じられている重要なものだ。
神聖視しているといってもいい。
俺は思わずため息を吐いた。
そして、どうにか信頼を得られたことを喜んだ。
この出来事を機に、カンジーロウ以外の6人の心はどんどん回復していたのだった。